日本でジョブ型雇用が普及しないのはなぜか ージョブ型雇用にどのように備えるべきか

2020年ごろから企業のジョブ型雇用の採用がニュースとして見る機会が多かったですが、最近ではあまり話題になっていないように思います。早期に導入した企業においても運用面で苦戦している企業も存在しています。

では、なぜ日本においてジョブ型雇用が普及しないのか、また、今後のジョブ型雇用はどうなるかをまとめました。

目次

ジョブ型雇用とは

ジョブ型雇用とは、企業が用意した職務内容(ジョブ)に必要な能力や経験がある人を雇用する制度です。採用してから職務を割り当てるのではなく、職務ありきで人を採用します。

ジョブ型雇用では、明確なジョブディスクリプション(職務記述書)のもとに雇用されます。業務内容や責任の範囲、必要なスキル以外にも勤務時間や勤務場所などを明確に定めた上で雇用契約を結びます。そのため、別部署への異動や転勤などは無く、昇格・降格も基本的にはありません。

ジョブディスクリプション(職務記述書)には以下のような項目が記載されます。

  1. 職種・職務・職務等級
  2. 職務概要・具体的な職務内容・各職務のウェイト
  3. 期待されるミッションと目標
  4. 組織との関わり方
  5. 直属の上司・部下、責任・権限の範囲
  6. 雇用形態、勤務地、勤務時間など
  7. 必要とされる知識・スキル・資格
  8. 待遇・福利厚生

ジョブ型雇用では、職務の内容や専門性の高さによって設定される「職務給」です。年齢や勤続年数で給与が決まるわけではないため、スキルの高さや能力値の高さ次第では、高収入となる場合もあります。

従来のメンバーシップ型雇用との違いは

ジョブ型雇用に対して、人に職務を充てる考え方をメンバーシップ型雇用といいます。

現状、日本企業の多くはメンバーシップ型雇用を採用しています。高度経済成長下において企業を成長させるためには従業員の”数”を募集することが優先されました。そのため、新卒者を大量に一括採用し、囲い込み業務内容に適した人材に育成することが重視されました。

ジョブ型雇用とメンバーシップ型雇用の違いは以下の通りです。

項目ジョブ型雇用メンバーシップ型雇用
基本概念職務に人を充てる人に職務を充てる
採用の対象仕事内容にマッチする人材会社にマッチする人材
採用の時期中途採用新卒一括採用
採用の条件職務内容や勤務条件が明確に定義されたうえで雇用職務や勤務地を限定することなく新卒で正社員を一括採用し、長期にわたって雇用
雇用契約条件が明確化された雇用契約年功序列の終身雇用で離職を抑止し、企業側の都合で人を異動させる雇用
評価方法即戦力で採用され能力やスキルのみで判断されるため成果次第では人事評価が高くなり、早期昇格があり得る年功序列であることから縦横の玉突き移動がおこなわれることが多く、早期昇格や降格が起こりにくい
業務内容雇用契約以外の業務を担うことがないため、自分の専門業務に専念できる明確な業務内容は定義されておらず、転勤、異動、ジョブローテーションを繰り返しながら色々な業務をこなす
給与職務による(職務給)職位・役職による
配置転換・異動基本的にはない、または、少ない基本的にはあり
雇用保障弱い。職務要件を満たさなくなれば、解雇もありうる強い。不当な解雇はできない

ジョブ型雇用を導入している企業

2010年代後半から大手企業を中心にジョブ型雇用を導入する企業が現れ始めました。

企業名概要
日立製作所2020年4月から新卒・既卒者の採用戦略を「メンバーシップ型」から「ジョブ型」に転換。
2023年は経験者(600人)と新卒(600人)合わせてジョブ型採用の比率を95%(1200人中1140人)にすると発表
富士通2020年4月より幹部社員を中心にジョブ型人事制度を導入しています。2022年4月をめどに、国内外のグループ企業の約45,000名でジョブ型雇用を導入。
従業員一人ひとりの職務内容について、期待する貢献や責任範囲を記載した「Job Description(職務記述書)」を作成。
責の高さを表す当社グループグローバル共通の仕組みである「FUJITSU Level」を導入し、レベルに応じた報酬水準とする。
資生堂2015年10月に管理職層からジョブ型雇用を導入し、2021年1月には一般社員へと拡大。
ジョブ型雇用制度を日本の風土にもあうようカスタマイズした「ジョブグレード制度」を導入。20以上のジョブファミリー(領域)と、ジョブファミリーそれぞれのジョブディスクリプション(職務定義書)を用意
パナソニックコネクト2023年4月から国内で勤務するパナソニックコネクトの社員、約1万2千人が対象にジョブ型雇用を導入。
約1400の職務を定義し、難易度や重要性に応じて賃金を設定。
KDDI2021年4月から全総合職を対象に「KDDI版ジョブ型人事制度」を導入。
グレード定義書と30の専門領域を定めた専門領域定義書により、求められる職務・スキルを具体化・詳細化。
双日2021年3月19日に「双日プロフェッショナルシェア(SPS)」を設立。
35歳以上の社員のやりたいことを支援するキャリアプラットフォームとして、ジョブ型雇用を採用。
三菱ケミカル2020年10月にジョブ型雇用を導入し、2021年度から一般社員にも適用。
人材需要発生時の配置は、原則として社内公募を活用し、意欲・能力のある人材配置を実現。
各社公開情報に基づき作成

日本能率協会の調査によれば、部分的にでもジョブ型雇用を導入している企業は、22.3%とまだまだ普及は進んでいないようです。

日本能率協会「当面する企業経営課題に関する調査 -組織・人事編2023-」

日本でジョブ型雇用が普及しない理由

2020年ごろにバズワード的に広がっていたジョブ型雇用ですが、以下のような内部環境・外部環境における障壁が導入・普及を妨げています。

業務の切り分けが困難

まず、ジョブ型雇用を推進するためには、一人ひとりのジョブの内容が明確に定義されていることが必要ですが、メンバーシップ型雇用を採用していた企業では、多くの業務が属人的で明確に定義・文書化されていないことがほとんどです。

そのため、まずは既存の業務を整理し、一つ一つのジョブ単位に切り分け、定義するということからスタートしないといけないのですが、それにも相応の労力が必要となります。また、明確に切り分けが困難な業務も存在するため、どこまでを一つのジョブとするかも考えないといけません。

終身雇用・雇用の安定性

依然として日本企業では終身雇用や年功序列が残っている企業が多く、企業内のスキルを持った優秀な人材があまり転職しないということがあります。言い換えれば、雇用が安定しているということで、現状の待遇を捨ててまで、ジョブ型雇用を選択するということが多くはありません。

そのため、ジョブ型雇用で期待する人材が転職市場に流出するということが少なく、ジョブ型雇用を導入しても人材が集まらないのです。

また、社内の人材についても同様で、メンバーシップ型雇用を前提として採用された人材が、いきなりジョブ型雇用のため専門領域を伸ばすためのスキルアップやリスキリングを行うことは困難だと言えます。人材育成やキャリア形成支援の施策を併せて推進しなければジョブ型雇用は上手く機能しません。

労働人口の減少

また、業界全体として労働人口が低下している現状において、ジョブ型雇用で専門性の高い人材を確保することは難しいと言えます。

一方で、ジョブ型雇用により働き方の多様性を認めることで、外国人、シニア、育児・介護をしないといけない人などこれまで採用が難しかった人材を採用できる可能性もあります。そのため、いかに柔軟な働き方、適切な待遇を認めるかが採用競争においては重要になります。

組織力の低下

また、企業目線ではジョブ型雇用により、組織力が低下することも懸念として挙げられます。

ジョブ型雇用では、ジョブディスクリプションに記載されている業務内容を遂行すれば良いことになり、他の従業員とのコミュニケーションの機会も限られます。そのため、組織の一体感やチームワークが低下する可能性があります。

また、業務がジョブディスクリプションに記載した内容に限定されるということで、付随的に発生した業務については他の従業員が対応せざるを得ないという状況が発生します。ジョブ型雇用で採用された従業員とメンバーシップ型雇用で採用された従業員の間で業務量の不平等が生じ、不満や軋轢が生まれる可能性もあります。

今後の見通し

上記のような普及の課題はあるものの、以下のような要因により、中長期的にはジョブ型雇用は徐々に普及していくと考えられます。

国際競争力の向上

今後、企業の国際競争力を高めていくためには、より専門性の高いスキルを持った人材を確保する必要がある。そのような人材を新卒者からゼロから育成するのは困難です。そのため、スキルや職務内容を限定し、特定の職務に特化したスペシャリストを採用していく傾向が強まります。

また、そのような高いスキルをもった人材にとって、メンバーシップ型雇用のような、職務・職位に応じた給与体系、ジェネラリストの働き方は魅力的ではないことが多いです。業務内容に応じた高い給与が得られ、自分の得意領域の業務だけを行えるということが理想的な働き方といえます。

人材・働き方の多様化

労働力人口の減少、グローバル化に伴い、働く人材と働き方が今後多様化していくことが考えられます。例えば、人材の観点では、外国人、シニア、育児・介護をしないといけない人など、働き方の観点では、フルタイム以外での働き方、テレワークなど。

そのため、働き手自身が自分に合った働き方を選択することができるジョブ型雇用の方がメンバーシップ型雇用に比べて適していると考えられます。自分の好きなタイミングで、自分の得意領域だけを業務として遂行すれば、業務内容に見合った給与を得られるということで、非常に働きやすいです。

これは企業目線でも、これまで採用候補対象外だった人材を採用する可能性を拡大するということでもあり、人材不足を解消することにもなります。

ジョブ型雇用に備えて

今後、段階的に普及するであろうジョブ型雇用に自らおいては、自ら目標を立て実行する自律性が求められます。自分自身で専門性を見つけ、スキルアップ、キャリアアップをしていく必要があります。若年層に限らず、シニア層に関しても今後安定的な収入を得るためには、ジョブ型雇用への移行に対応していく必要があります。

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この記事を書いた人

Junyaと申します。都内のコンサルティングファームで働いております。まだまだ若輩者ですが、私の得た経験や感じたことを本ブログで紹介できればと思います。
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