多くのビジネスパーソンは日々、何かしらリサーチを行っていると思います。それほど日常的な作業でありながら、あまりノウハウが整理されていないというのが現状だと思います。
リサーチはIPO(インプット・プロセス・アウトプット)のインプットに該当するもので、このインプットの品質が良くなければ、アウトプットの品質も良くなりません。
また、スピードも重要です。リサーチというのはあくまでアウトプットを出すための手段なので、それ自体に価値はありません。なので、プロセスやアウトプットに時間をかけるためにもインプットは最速で終わらせることを意識しなければいけません。
本記事では、コンサルタントの私が普段実践しているリサーチのテクニックを紹介したいと思います。
リサーチの種類
まず、リサーチには大きく2種類あると考えています。
- 広く浅くのリサーチ
- 狭く深くのリサーチ
広く浅くのリサーチとは、幅広い分野の情報をざっくりと集めることです。”ざっくり”というのは、”現在の事実のみ”を理解するイメージです。このリサーチでは、アウトプットを前提としていません。そのため、このリサーチで集めた情報が必ずしも活用されるとは限られません。ビジネスのアイデアの着想を得るため、顧客とのコミュニケーションに活用するためなどに日常的に行います。
狭く深くのリサーチとは、特定の分野の情報をアウトプットに必要な粒度で集めることです。このリサーチでは、アウトプットを前提としています。そのため、現在の事実だけでなく、背景、過去・未来、類似の事実などの情報を集める必要があることも。意思決定を促すため、仮説を検証するためなどにその都度行います。この狭く深くのリサーチではChatGPTを活用することが有効なので、その方法も紹介したいと思います。
広く浅くのリサーチ
前述の通り、広く浅くのリサーチはアウトプットを前提としないので、”仕事”として取り組むということは少ないと思います。
そのため、各人が業務外で情報収集を行います。その手段としてキュレーションサイト、SNS、PR Timesを推奨します。
キュレーションサイト
キュレーションサイトとは、様々なテーマの世間的に注目度の高いニュースをまとめたサイトです。キュレーションサイトをすきま時間で眺めることで、様々なテーマの情報をざっくりと把握することができます。
キュレーションサイトの魅力は、テーマが限定されていないこと、色々な媒体(メディア)の情報が掲載されていること、情報量が少ないことです。
テーマが限定されていない
人は情報を見るとき、自分に興味のある情報や自分が良く知っている情報に注目しがちです。そのため、それ以外の分野の情報に疎くなってしまいます。ビジネスのアイデアなどは突拍子のないところから出ることも多いため、自分には全く関係がないと思っている情報でも、軽く把握しておくことで将来的に役立つ可能性もあります。
色々な媒体(メディア)の情報が掲載されている
メディアが限定されていないというのも特長の一つです。メディアによっては取り扱う情報、取り扱わない情報があるため、一つのメディアだけを見ていては情報にバラつきが発生することもあります。そのため、色々なメディアを扱うキュレーションサイトを見ることで、まんべんなく情報を集めることができるのです。
情報量が少ない
キュレーションサイトでは、比較的シンプルな記事が掲載されており、タイトルだけ見ても内容を把握できるものが多いです。必要以上に情報量が多いとそれだけインプットに時間がかかってしまいます。この情報量の少なさが、”幅広い分野をざっくりと”短時間で把握するのに有効なのです。
以下に主なキュレーションサイトを紹介しますが、複数利用する必要はないと思います。使いやすさなどから自分に合ったものを一つ利用すれば良いと思います。
主なキュレーションサイト
Newspicks(ビジネス寄り)
SNS(主に”X”)
SNS(主に”X“)を活用することで、ニュースサイトに掲載されていない最新の情報を手に入れることができます。
業界の有識者などをフォローすることで、その有識者のコメントがタイムラインに表示され、業界や企業の最新動向、今後の予測などを把握することができます。ニュースサイトで掲載されている情報以上にリアルな情報を入手することができます。
注意点としては、信頼のできる有識者を選択すること、信頼のできる有識者であっても内容を鵜呑みにしないことです。
まず、情報の正確性を担保するためにも世間一般に広く認められている有識者を選択しフォローすることが大事です。有名人でなくともきちんとした実績があれば、信頼するに足ると判断できます。しかし、それらの人物が発信する情報であっても必ずしも正しいとは限りません。また、中立的な立場からの意見とも限りません。なので、他の情報と比較した上で、その内容の正確性などは判断する必要があります。
PR Times
PR Timesでは企業のニュースリリース、プレスリリースが掲載されているサイトです。
企業が公式に発信している情報なので、信頼できる一次情報として捉えることができます。但し、情報の数が多いので、タイトルだけを眺めて気になったものをチェックするという見方で良いかと思います。
ランキングについては情報の偏りがあるため、あまり使用することはおすすめしません(エンタメ系やキャンペーンなどばかりになってしまいます)。
※新聞や専門誌をおすすめしない理由
今回、新聞や専門誌を推奨しなかった理由としては、新聞はメディアが限定される点、専門誌はテーマが限定されてしまうという点です。
新聞を読む場合、多くの人が1~2程度の新聞社のものしか読まないことが多いと思います。そうなると情報に偏りが出てしまう可能性があります。新聞社によっては、見解は偏っている場合もあります。少数の媒体に限定して情報を集めることになってしまうため、新聞はおすすめしていません。
専門誌についてはテーマが限定されてしまうので、広く浅くリサーチするという趣旨から外れてしまうので、今回は推奨していません。もちろん、自身の興味関心に基づき、情報を集めるという点では専門誌を読むということは良いと思います(これは、プライベートにおける狭く深くのリサーチですね)。
狭く深くのリサーチ
次に狭く深くのリサーチです。
このリサーチでは、アウトプットを前提とするため、アウトプットから逆算して考える必要があります。そのため、やみくもにリサーチをするのではなく、きちんと仮説を立てた上でリサーチを進めることで効率的に実行できます。
しかし、仮説を立てるというのは意外と難しいもので、多少の経験・知識がないと筋の良い仮説を立てることはできない場合が多いです。そこで、ChatGPTを活用します。全く知識がない業界でもChatGPTと対話することで、一定程度質の高い仮説を立てることができます。
ChatGPTを活用し、仮説を立てる
まず、ChatGPTを活用し、仮説を立てます。
※ChatGPTはあくまで仮説を立てるだけで、実際の情報収集はGoogle検索で行います。というのもChatGPTの情報は常に正しいとは限らないからです。
例えば、上司から「男性化粧品業界でのビジネスを検討しているから軽く調べておいて」というざっくりとした指示が来たとします。そこで、「男性化粧品業界は魅力的か」、「男性化粧品業界に参入するにあたって注意すべき点は何か」という観点で調べたいと思います。
それぞれをChatGPTに聞いてみます。
男性化粧品業界は魅力的か
男性化粧品業界は成長市場にあり、魅力的な市場といえる。
その要因としては男性の美容意識、健康志向の高まりがある。
比較的新しい市場で、競争はそれほど激しくない。
一方で、今後競合企業が参入する可能性や男性化粧品の普及に時間を要する可能性が考えられる。
男性化粧品業界に参入するにあたって注意すべき点は何か
男性化粧品業界参入に当たっては以下の点に注意する必要がある。
①ターゲット層やペルソナの特定
②ターゲット、ペルソナに即した製品開発
③ターゲットに対するマーケティング、販売戦略
④化粧品の商品の品質・安全性を維持するための取り組み
⑤化粧品業界における法規制への対応が必要
このようにChatGPTを活用することで、検証しなければいけない仮説がある程度明確になります。この仮説をさらに深ぼってみたいと思います。男性化粧品の「①ターゲット層やペルソナの特定」という点に着目したいと思います。
男性化粧品の販売は誰をターゲットにすべきか
男性化粧品の販売は美意識の高い若い層をターゲットとすべき
このようにChatGPTと対話することでどんどん仮説を進化させることができます。但し、これが正しいかどうかは実際に情報を集めてみないと分かりません。
次はGoogle検索で調べてみます。
Googleで検索する
ChatGPTで得られたキーワードで検索
それでは、以下の仮説が正しいか検証してみたいと思います。
男性化粧品の販売は美意識の高く、商品を多く購入してくれる若い層をターゲットとすべき
検索する際はChatGPTで得られたワードをベースに検索すると求める情報に効率的にたどり着けます。
例えば、上記の仮説を検証するため「男性化粧品 ターゲット 年齢」で検索してみます。
するといきなり有用そうなページが出てきました。
一番上のページを開いてみます。
すると次のようなデータがありました。
データを見ると男性化粧品は20代の若年層よりも、40~50代の中高年層の方が購入金額が大きいことが分かりました。ChatGPTに基づいて立てた仮説とは少し異なる結果となりました。そのため、また仮説をアップデートし、再度調査を行い、仮説の検証・反証を繰り返していきます。
このようにChatGPTに基づいた仮説を検証するため、ChatGPTから得られたキーワードベースに検索することで、効率的に情報にたどり着くことができるのです。
検索で全体を把握する
Google検索では、画像検索も有用になります。次の仮説を検証するため、画像検索を活用してみたいと思います。
男性化粧品業界は成長市場にあり、魅力的な市場といえる。
上記の仮説を検証するため「男性化粧品 市場 成長性」で検索します。
画像をクリックします。
すると仮説の検証に役立ちそうな情報が視覚的に確認することができます。ここの画像を見るだけでも上記の仮説が正しいかどうかは検証することができそうです。どうやら男性化粧品業界は成長傾向にあるようです。
情報の種類を指定する
次の仮説について、情報の種類を指定して情報を集めてみたいと思います。
化粧品業界における法規制への対応が必要
検索キーワードに情報を提供する機関・企業などを加えることで、適切な種類の情報を入手することができます。
化粧品だと厚生労働省による規制が中心だと思いますので、「化粧品 規制 厚生労働省」と検索します。
すると厚生労働省が関連する規制の情報が上部に出てきます。ここで「化粧品基準」という規制が存在するということが確認でき、男性化粧品業界でも留意が必要だと分かります。
このようにGoogle検索により、仮説を検証・反証を進めていきますが、情報の質にもこだわる必要があります。
情報の質にこだわる
情報の質というのは、大きく情報の種類、情報の出所、情報の鮮度、情報の取得手段で分類できます。
情報の種類
情報の種類には一次情報、二次情報、三次情報があります。
情報の信頼性は、次のような関係性になります。なので、リサーチにおいては一次情報や二次情報を活用することを意識します。
一次情報>二次情報>三次情報
- 一次情報:実態調査・アンケート調査・実験などにより直接集めた情報。図書情報では、論文や資料集など研究活動から生み出されたそのままの情報(広辞苑より引用)
- 二次情報:一次情報を検索や流通に便利なように要約・整理・加工・再編成した情報(広辞苑より引用)
- 三次情報:情報源が定かではない情報(厳密な定義はないが、一般的には左記)
情報の出所
情報を誰が提供しているかという点にも注意を払う必要があります。
一般的に信頼性の高い情報・低い情報は次のように分けられます。特にまず、あたりをつけたいのは「 政府・自治体の提供する公的調査・統計」です。これが最も客観的でバイアスがかかっておらず、正確性も高い情報と考えれます。
信頼性の高い情報 | 信頼性の低い情報 |
---|---|
上場企業が提供するIR資料 業界団体、調査機関、コンサルティングファーム、シンクタンクが出版するレポート 引用件数が多い学術論文 大手出版社の書籍 | 政府・自治体の提供する公的調査・統計個人ブログ Wikipedia SNS(一部有識者の情報除く) 個人出版の書籍 |
見つけた情報については何でも採用するのではなく、まず誰が提供しているのかを確認しましょう。
情報の鮮度
情報の鮮度も重要です。
もちろんですが、基本的には最新の情報を優先的に確認します。調査やレポートに関してもXX年度版というものについては、最新の調査結果やレポートが公開されていないかをチェックします。
最新の情報を見つけるためのテクニックとして「ニュース」で検索する方法があります。これにより、新しい情報順に記事が並べられるので、最新の情報をすぐに見つけることができます。
情報の取得手段
インターネットで見つけた情報であっても、その情報がどのように取得されたのかを確認する必要があります。統計調査やアンケート調査においてサンプルが少なかったり、調査対象が限定的であったりすると、情報として不適切になる場合もあります。
なので、見つけた調査結果について以下のような観点をチェックします。
- 調査の目的は何か
- 何名に対して調査を行ったのか
- 調査対象は誰か
- 対象者にどのような質問を行ったのか
- 質問は単一回答か複数回答か
有用な情報の出所
最後に狭く深くのリサーチを行う上で、有用な情報の出所をご紹介します。この他にも有用なサイトがあれば、是非コメントで教えてください。
統計情報
- 総務省統計局リンク集:各分野の統計を調査している国際機関の一覧
- 世界銀行データベース:世界各国のマクロデータ
- e-Stat:日本国内のマクロデータ
業界団体
- 業界団体一覧:各業界における業界団体を調べることができる
調査機関、コンサルティングファーム、シンクタンクのレポート
企業情報
まとめ
以上、私が実践しているリサーチ手法についてまとめました。
普段は、”広く浅くのリサーチ”で様々な分野でアンテナを張り、アイデアの着想を得ていきます。業務における”狭く深くのリサーチ”では、ChatGPTを活用するなど効率的に調査を行うための仮説構築をした上で、質の高い情報を集めていきます。
これらを実践することで質の高いアウトプットを生み出すためのインプットができると思いますので、是非参考にしてみてください。
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