本記事ではリサーチをする際に注意したい心理バイアスを5つ紹介します。調べ物をする際にこのバイアスに陥ってしまうと期待する結果が得られない可能性があります。このバイアスを理解していれば、バイアスを回避し、良い結果を出すことができます。
確証バイアス
確証バイアスとは
確証バイアスとは、自分が立てた仮説(仮の結論)を支えるため、自分にとって都合の良い情報を集めてしまい、逆に自分の都合の悪い情報を無視したり、過小評価したりすることです。コンサルの世界では、仮説を立てたうえでリサーチをするように言われますが、仮説にこだわりすぎるとこの確証バイアスに陥ってしまいます。
具体例
「若い人ほどキャッシュレス決済の利用に積極的だ」という仮説は一見正しそうです。スマホの保有率は若い世代ほど高く、デジタルネイティブでリテラシーも高いので、現金決済は利用しない、という説明も一見すると納得がいくように思えます。ですが、実際のデータを見てみると20歳代よりも30、40、60歳代の方がよりキャッシュレス決済を利用しています。
もちろん、このデータだけを理由に正しいとは言い難いですが、もともと立てていた仮説を覆す反証となります。また、以下のような事実もあり、必ずしも「若い人ほどキャッシュレス決済の利用に積極的だ」というのは正しくないのです。
- クレジットカード保有率は20歳代は少ない
- 若い人ほど収入が安定しておらず、お金の利用に慎重で、キャッシュレス決済は無駄遣いしてしまうと考える
確証バイアスに陥ってしまうと上記のような事実も見えなくなったり、大した要因ではないと過小評価してしまうのです。
回避方法
1.数字で考える
まず、数字を確認することが大切です。数字は誰が読んでも同じ事実として捉えることができます。すなわち、数字を見ることで自分の仮説が正しいか、間違っているかを絶対的に検証することができます。当然、その数字が正しいかというのは検証が必要ですが、確証バイアスから抜け出す手段としては有効にはたらきます。
2.反証事実から探す
仮説が数字だけでは検証できないこともあります。そのような場合は、まずは反証する事実を積極的に集めるようにします。いかに精通している領域であっても、まずは自分自身を疑うところから入ることが重要です。時代の移り変わりで、事実が変わっていることも当然起こり得ます。なので、自分自身を過信せずに、自身の仮説と反する事実はないかをある程度時間をかけて探すことを意識すると良いと思います。
3.第三者の見解をうかがう
最後に自分自身だけで結論付けないことが重要です。第三者の意見を伺うことで、自分とは全く異なる仮説を発見することもあります。第三者も自分自身の親しい人だと同じバイアスに陥っている可能性があるので、できるだけ無関係な人に意見をもらうことが有効です。また、若手の部下や後輩など業界に染まっていない人に聞くことで新しい発見を得ることもあります。
マジックナンバー3
マジックナンバー3とは
マジックナンバー3とは、理由・根拠が3つあると主張が正しいと思い込んでしまうことです。
「3」という数字は非常にまとまりが良く、世界三大〇〇、三種の神器、松竹梅など、日常でもあらゆる場で用いられています。情報が3つであると、人間が認知し、記憶しやすく、それ以上だと覚えにくく、それ以下だと根拠が乏しく感じてしまうのです。
具体例
根拠が3つ示されている場合でも、そもそもの根拠が脆弱であったり、本質的に同じ根拠を表現を変えて示している場合があります。
例えば、「テレワークは禁止すべきである」という主張に対して根拠を3つ示します。
- XX部長がテレワークを嫌がっているから
- 自宅では誘惑が多く仕事に集中できないから
- 自宅では業務の生産性が落ちるから
理由が3つあるとまともそうに見えますが、1つ1つの根拠は主張を支えるに十分ではありません。1つ目の「XX部長がテレワークを嫌がっているから」というのは個人的な見解であり、主張を支えるには十分ではありません。また、2点目、3点目はそれぞれ原因と結果になっており、本質的には同じ根拠を指しています。ですので、「テレワークは禁止すべきである」という主張には説得力がありません。
回避方法
1.1つ1つの根拠の検証
まず、1つ1つの根拠が正しいかを検証します。それぞれの根拠がきちんと数字や事実に裏付けられているかを確認します。また、その数字や事実もどのような人物・機関の発表した内容かを確認し、信頼性を検証することが重要です。
2.根拠と主張のロジックの検証
根拠が主張を論理的に支えているかを検証します。主張に対して、「なぜ」、「なぜ」を繰り返し、根拠が論理的に主張と整合しているかを確認することが重要です。
3.根拠のレベルの確認
違う表現でも本質的には同じ根拠とならないように根拠のレベル感を揃えることも重要です。具体例に挙げたように、根拠がそれぞれ「原因」と「結果」となっている場合があるため、レベルを揃え重複が発生しないようにします。(「結果」をレベル1の根拠として示し、「原因」はレベル2とするなど)
ソリテス・パラドックス
ソリテス・パラドックスとは
ソリテス・パラドックスとは、意味や境界値が曖昧な概念をどのように取り扱うかによって、結論が異なってしまうことを指します。
代表的な例として砂山のパラドックスがあります。
「砂山から砂を1粒取り除いても、それは依然として砂山」という命題を正しいものとすると、砂を1粒ずつ取り除く作業を繰り返しても、残されたものは「砂山」ということになります。そして、最後に残った1粒も砂山ということになります。
具体例
「砂山」のように定義が曖昧なままリサーチをしてしまうと、自分の中の定義で調べ、上司やクライアントが期待した成果が出ない可能性があります。自分と他人の定義は違うからです。
例えば、成長企業を調べるという場合でも、色々な観点で定義が考えられます。
- 何を基準に測定する?(売上?利益?社員数?)
- 何年から何年までの成長性?
- 何%から成長とする?
この定義が自分と他人(上司やクライアント)と揃っていないと、誤った内容をリサーチしてしまって、期待する結果が出てこないのです。
回避方法
1.言葉の範囲・定義を合意する
曖昧な言葉についてステークホルダーと合意します。「若い世代とは16歳~29歳を指す」というように、言葉の範囲・定義を明確にし、上司・クライアントと合意します。ボーダーラインとなる上限・下限をどのように設定するかが重要となります。
正規分布バイアス
正規分布バイアスとは
正規分布バイアスとは、物事の分布を正規分布と思い込んでしまい、平均値がそのデータの代表的な値と考えてしまうことです。
正規分布に従う例として、身長や体重があります。身長の場合、平均身長の周り±1σの範囲に約68%の人が該当します。このように正規分布に従う例はいくつかあるのですが、そうでない場合にも正規分布に従うと思い込んでしまうのです。
具体例
正規分布に従わない例として年収があります。年収は正規分布に従わず、年収が低い左側にピークがあります。そのため、平均値と中央値に100万円以上のギャップがあります。これを正規分布に従うと思い込むと、年収450万円の人は平均よりも100万円も低いと焦ってしまうのです。実際は中央値に近く一般的であることがわかります。
回避方法
1.データの性質を理解する
データがどのような性質のものか理解することが重要です。例えば、身長・体重などはある一定の範囲に収束します。身長500cmの人や体重1,000kgの人はまずいません。一方で年収は一定の範囲に収束せず、大きく外れる値が存在します。年収1億円を超える人等も多くはありませんが、存在します。このような場合は、正規分布に従いません。
2.データを可視化する
データを以下の手法で可視化するのが効果的です。
・ヒストグラム
・Q-Qプロット(Quantile-Quantile Plot)
3.正規性の検定を行う
以下のような手法で正規性の検定を行います。
・歪度によるダゴスティーノ検定
・尖度によるダゴスティーノ検定
・歪度と尖度によるオムニバス検定
・コルモゴロフ=スミルノフ検定
・シャピロ=ウィルク検定
疑似相関
疑似相関とは
疑似相関とは、2つの事象に直接的な関連がないのに、見えない第三の要因によって、因果関係があるように推測してしまうことです。AとBが一見相関しているように見えるが、実際はCという第三の要因によって、AとBが引き起こされているという場合です。
具体例
例えば、アイスクリームの売上の増加と溺水事故件数が増加が一致しているデータを見ると、相関があるように見えます。相関があるとすると、次のような理由が思い浮かびますが、いずれもしっくりきません。
- アイスクリームを食べると溺れやすくなる?
- 溺れた後はアイスクリームを食べたい?
つまり、この2つの事象には相関がなく、気温という第三の要因によってそれぞれが同時に引き起こされ、相関があるように見えるのです。
- 気温が上がるとアイスクリームが売れる
- 気温が上がると海やプールで泳ぐ人が増える
回避方法
1.第三の要因を疑う
2つの事象に相関がある場合でも、第三の要因が存在しないかを疑うことが大切です。数字を過信することなく、事象がどのようなデータに基づき、どのように解釈されたか注意します。
2.事象の真因を探る
それぞれの事業に対して、「なぜ」、「なぜ」を繰り返し、真因(真の原因)を探ります。原因と結果が論理的に整合するか、第三者の見解を伺いながら検証を行うことが重要です。
まとめ
以上、リサーチをする際に注意したい心理バイアスを5つ紹介しました。これらのバイアスは日常にも潜んでおり、誰でも陥ってしまうものです。なので、自分を過信せずに上司や同僚に意見を求めたりすることが効果的です。親しい人の場合、同様のバイアスに陥っている可能性もあるので、全く関係のない第三者に意見を求めることも有効です。まずは自分を疑うことから試してみてください。
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