コンサルタントの従事するプロジェクトにおいては、公開情報のリサーチやデータを活用した分析の他、有識者や現場の従業員にインタビューすることがあります。インタビューは、コンサルタントの業務の中でもかなり難しいものです。適切な質問を行うための論点設定・仮説構築力、相手の回答を理解する論理的思考力、回答を引き出すコミュニケーション能力などが高いレベルで求められます。
そのため、インタビュー前にはきちんと準備を行い、対策を考えておくことが非常に重要です。本記事では、「インタビューの目的の明確化」⇒「インタビューの選定」⇒「インタビューの準備」⇒「インタビュー実施」の順で、それぞれ動き方やコツをご紹介します。
インタビューの目的の明確化
まずはインタビューの目的を明確にします。
コンサルタントが従事するプロジェクトであれば、何らかの成果(成果物)を出すためにインタビューを行うことがほとんどです。今回のインタビューはどのような目的で実施するかを明確にすることで、誰に対して何名ほどどのようなインタビューを行うかが明確になります。目的によっては、インタビューが適切な手段ではないと分かる場合もあります。
インタビューの目的・アウトプット
インタビューの目的は事前に具体的に決めておきます。可能であれば、インタビュー結果をどのようなアウトプット(資料)にまとめるかを明確にしておくと良いです。アウトプットが明確であれば、どのような情報が、どの粒度で、どのようなボリュームで必要かが、自ずと明らかになります。
例えば、業務改善プロジェクトにおいて従業員の業務の満足度を把握するためにインタビューを実施するという場合、最終的なアウトプットとして、以下のようにまとめると定めます。
- 部署別・役職別・年齢別に満足している点/不満に感じているトップ5を整理
- それぞれの不満と原因を整理
- 原因に対して改善してほしい要望を整理
- 業務にどのような影響が出ているか
この場合、部署・役職・年齢で、ある程度まんべんなく意見を収集する必要があります。不満を感じている従業員についてはその原因や原因に対する改善要望を聞く必要があります。また、今後の業務改善のため、実際に業務にどのような影響が出ているかを把握する必要があります。
このようにインタビューの目的・アウトプットを最初に明確にしておくことで、”誰に”、”どのような内容を”聞くかが明らかになります。
インタビューの対象・人数の設定
次にインタビューの対象と人数を設定します。
インタビューの目的が明確になれば、ある程度誰にインタビューをすれば良いかは明確になると思います。但し、全員にインタビューするというのは時間や工数の関係でできないことがほとんどだと思います。なので、候補者をいくつかのカテゴリに分け、そこで何名インタビューを実施するかを決定します。
カテゴリの分け方や対象人数の決め方はケースバイケースです。
例えば、上記の従業員の業務の満足度を把握するためにインタビューの例で、全社まんべんなくインタビューしたい場合は、下記のように部署や年齢で分けてカテゴリ分けを行うと良いかもしれません。その上で、各部署の従業員数に応じて重みづけをしたり、より不満を把握したい年齢層については多目に対象人数を設定したりします。
第一営業部(従業員数50名) | 第二営業部(従業員数80名) | 第三営業部(従業員数50名) | |
---|---|---|---|
50歳~ | 2名 | 3名 | 2名 |
35歳~49歳 | 2名 | 3名 | 2名 |
20歳~34歳 | 3名 | 4名 | 3名 |
インタビュイーの選定
次にインタビュイー(インタビューされる人)の選定を行います。
前段ではざっくりとインタビュー対象を決定しましたが、具体的に誰にインタビューするかを決定します。インタビューにはお金も時間もかかるので、必要な情報を提供してくれるインタビュイーを選ぶ必要があります。
適切なインタビュイーを選定する
インタビュイーの選定基準はインタビューの目的によって異なりますが、例えば以下のような内容を見ることが多いです。
- 部署
- 役職
- 職務経歴
- 年齢
- 性別
例えば、自動車の製造に関する課題について意見を聞きたいのに、自動車メーカーの営業に所属している人に聞いてもあまり意味はありません。また、その業界の経験年数が浅い新人の人に聞いてもおそらく良い回答は得られないと思います。
また、インタビュイーがどのようなスタンスかも選定の参考になります。例えば、5名にインタビューする場合、5人全員が保守的な立場を取る人だとすると、回答に偏りが出てしまいます。例えば、2名保守的な立場の人、2名進歩的な立場の人、1名中立な立場の人というように回答に偏りが出ないようにインタビュイーを選定するのが良いです。
早めに日程調整
インタビューに限らずですが、インタビュイーとは早めに日程調整します。コンサルタントの従事するプロジェクトであれば納期が決まっているので、後続のタスク踏まえ納期に遅れないように日程調整をしましょう。
また、インタビューの時間はあまり遅い時間で設定しないようにしましょう。インタビューは聞く側も答える側もかなり頭を使うので、それぞれ疲れていない状態で行うことで、より良い質問・回答を行うことができます。
インタビューの準備
次にインタビューの準備をします。
この準備ができていないとインタビュー本番で何を聞けばよいか混乱することになります。
質問内容とその仮説を立てる
インタビューの目的に応じて質問内容と仮説を整理します。
例えば、業務課題と対策について聞く場合は、その2つにカテゴリを分け、それぞれの質問について細分化していきます。質問はインタビューの目的に応じて異なりますが、What(何か)、Why(なぜ)、How(どのような・どのように)を聞くことが重要です。これらの質問を行うことで課題の本質を理解することができます。
質問ができたら仮説も考えておきます。コンサルタントのプロジェクトであれば、ある程度仮説を立てた上でインタビューに臨むことが多いです。“XXXのような課題が生じているのではないか”、“課題によりXXXの影響が出ているのではないか”というように質問に対する仮の答えを準備しておきます。
仮説を準備しておくことで、インタビューにより検証したいポイントが明確になり、インタビューで聞き忘れるということを防ぐことができます。
例えば、下図のようにExcelで質問内容と仮説をまとめた質問リストを作成し、インタビュー当日は質問リストに沿って聞いていきます。
内容にもよりますが質問数は、1質問=2~3分で見積ります。60分のインタビューであれば、20~30問くらいで質問リストを構成するとちょうど時間内に収まるくらいだと思います。
インタビュイーについて調べる
事前にインタビュイーについて調べることも必要です。
インタビューは時間が限られているため、細かい自己紹介など行われずに進めることも多いです。なので、インタビュイーについて、どのような企業・部署に所属しているか、これまでどのような業務を経験してきたのか、携わったプロジェクトや製品は何か、などを調べるか、職務経歴書などを事前にもらいましょう。
インタビュイーについて理解しておくことで、無駄な質問を省略できたり、より的確な質問を行うことができたりします。また、インタビュイーにとっても、自分を理解してもらえていると感じ、心理的な安心感を与えることができます。
インタビュー実施
いよいよインタビュー本番です。
当然ですが、インタビュー実施することが最も頭を使い、難しいです。以下ではインタビュー実施において意識したいポイントを挙げております。
インタビューは会話
まず、インタビューは会話であるということを意識する必要があります。インタビューと呼称していますが、あくまでインタビュアーとインタビュイーの会話です。自然な会話の流れになるように聞きたいことを聞く必要があります。
悪い例では、「インタビュアーが質問⇒インタビュイーが答える」という繰り返しの一問一答形式になってしまうことです。準備した質問リストの内容を聞くことに終始するとこのような形式になってしまいます。
相手の答えに対して共感する、自分なりに解釈する、理解していることを示すなどインタビュアー側もきちんと自分の意見を表現することで自然な会話になります。例えば、以下のような表現を挟むことで相手への共感や理解を示すことができます。リアクションを大きめに取ることも会話を弾ませる一つのコツです。
- それは大変でしたね。XXX業界にもそのような課題があるみたいですね。
- それってXXXということですか!もっと詳しく知りたいのですが
- 先ほどおっしゃっていただいたようにXXさんは、XXXと感じていると思うのですが
- それはすごいですね!どのような工夫をされたのですか?
また、会話ですので質問リストの順番にこだわる必要はありません。会話の流れで質問に関連する話題になった場合、質問の順番を変えることで、自然な会話になりますし、効率的に回答を聞くことができます。
インタビューの背景を説明する
挨拶・自己紹介が終われば、インタビューの背景を説明しましょう。
インタビューの背景では、以下のような内容を説明します。
- インタビューの目的や実施に至った経緯
- インタビュイーにインタビューをお願いした経緯
- 本日のインタビューで聞きたい概要
これらの内容を説明することで、どのように回答してもらうことを期待しているか、あらかじめ伝えることができます。インタビュイーにとっても、インタビューの目的を理解することで安心感を持って回答を行うことができます。
まずはオープンクエスチョン
質問にはオープンクエスチョンとクローズドクエスチョンがありますが、まずはオープンクエスチョンで聞くことを心がけます。
クローズドクエスチョン:「はい(Yes)」か「いいえ(No)」で答えられるような質問や回答が限定されている質問
オープンクエスチョン:回答を限定せずに、相手が自由に回答できる質問
例えば、業務課題に関するインタビューにおいて、ある程度原因の仮説が立てられている場合でも、まずはオープンクエスチョンで原因を聞いてみます。
今、営業部の業務時間が非常に長くなっていますが、何が原因だと思いますか?
オープンクエスチョンで聞く例
オープンクエスチョンで聞くことで、相手にバイアスを与えず、広く意見を聞くことができます。元々の仮説とは全く異なった意見が出ることもあるので、新しい視点で仮説をブラッシュアップすることもできます。逆にいきなりクローズドクエスチョンで聞くと、インタビュイーにバイアスを与えてしまい、意見の幅が狭まってしまう可能性があります。
オープンクエスチョンで聞いたうえで、内容が本質からずれてしまう場合、元々の仮説を検証したい場合などはクローズドクエスチョンで聞きます。
先ほど、営業部の業務時間が長くなっている原因は、営業担当者の人員不足が原因だとおっしゃっていただきましたが、営業マニュアルが整備されていないことは原因と考えますか?
クローズドクエスチョンで聞く例
深堀の方向性は5W1H
相手の回答についてより詳しく聞きたい場合は、5W2Hに当てはめて深堀を行いましょう。
- When(いつ)
- Where(どこで)
- Who(誰が)
- What(何を)
- Why(なぜ)
- How(どのように)
- How ~(どれくらいの金額、人数、割合、年齢、)
特に、コンサルタントのプロジェクトであれば、WhyやHowを意識して聞くことで、課題の本質に迫ることができます。例えば、以下のような質問で課題をより深く理解することができます。
- なぜ課題が生じているのか、なぜ課題を改善できないのか
- どのような属性の人で、どのくらいの人数に、どのくらいの金額の影響があるのか
質問には枕詞をつける
必要に応じて質問に枕詞をつけることによって、インタビュイーに不快感を与えず、回答をもらうことができます。枕詞とは、本題の前に置いて表現を和らげたり、予防線を張ったりするものです。例えば、以下のようなものがあります。
不確かな仮説をぶつける場合
- 初期的な仮説で恐縮ですが、XXXは課題と感じられていますか?
- 的外れな意見だったら、XXXは原因ではないのですか?
内容を深堀する場合
- 先ほどXXXが課題とおっしゃっていただきましたが、なぜ対策ができていないのでしょうか
- 今までの流れからXXXに影響があると理解していますが、具体的にはどのような影響があるのでしょうか
枕詞を付けることで、「インタビュイーの話をちゃんと理解してますよ」ということも示すことができるので、インタビュイーも気持ちよく回答することができます。
録音はできるだけしない
インタビューの本質ではありませんが、録音はできるだけしないようにした方が良いです。
人によっては、録音されると警戒心を持ったり、緊張したりして、上手く意見が出ないリスクがあります。なので、できるだけ録音はせず、メモ係を同席させることをおすすめします。
録音する場合でも、事前に録音の目的を伝えた上で、インタビューの許可を得ましょう。
まとめ
以上、コンサルタントのプロジェクトにおけるインタビューの動き方・コツをご紹介しました。
大切なことは、最終的な目的・アウトプットを踏まえ、インタビューを設計することです。この目的・アウトプットが明確であれば、インタビュイーに聞きたいことは自ずと明らかになります。その上で、上記のコツにより、より本質に迫った内容をインタビュイーに気持ちよく回答してもらうことができるのです。
プロジェクトでインタビューの機会があれば、是非参考にしてみてください。
コメント