菅内閣「デジタル庁」に対する期待

2020年9月16日に菅内閣が発足し、デジタル庁を2021年秋までにデジタル庁を新設する方針を掲げました。これは、新型コロナウイルス感染拡大により、日本のデジタル化の遅れが露呈したことが大きな要因となったと思われます。

一方で、過去に日本政府は森喜朗内閣において、2001年1月に「e-Japan戦略」を掲げ、日本が5年以内に世界最先端のIT国家となることを目指しましたが、失敗に終わりました。

デジタル化を進めるということは重要なことですが、デジタル庁にはまだ”戦略”がないように思います。つまり、なぜデジタル化を進めるのか(WHY)、何をデジタル化するのか(WHAT)、どのようにデジタル化するのか(HOW)、デジタル庁を設立し推進する必要があるのか(WHO)という検討が足りないように思います。当然、予算(税金)も有限ですし、投資に対して得られるリターンが少なければ、わざわざデジタル庁を設立し、デジタル化を進める意味はないでしょう。

率直なところ以下のようなニュースを見ていると迷走気味のような気がしてしまいます。

デジタル庁を福島に 公明提言(朝日新聞)

デジタル庁トップは女性 準備室に民間人10人―平井担当相(時事通信)

デジタル庁、21年に設置 トップに民間人検討(日本経済新聞)

デジタル庁の場所やトップの人材を議論するより前に根幹となる戦略をきちんと議論が必要です。

以下では、日本のデジタル化の現状を踏まえ、デジタル庁への期待を書いていきたいと思います。

目次

日本のデジタル化の現状

国連の経済社会局(UNDESA)が発表した「世界電子政府ランキング」では、日本は2016年は11位に、2018年には10位にランクインし、一定の評価を得ています。

また、総務省の「行政手続等の棚卸結果等の概要」では次のような実態が報告されています。

  • 年間21億件を超える手続のうち、オンラインで実施できる手続は、種類数ベースで12%、件数ベースで71%。
  • オンラインで実施できる手続件数のうち、実際にオンラインで実施されている手続件数の割合は55%。
  • 添付書類が無い手続やオンラインの方が処理期間が早い手続等、オンライン利用しやすい環境では、オンライン利用率が高くなる傾向。

行政手続のオンライン化はある程度進んでいるものの、利用があまり進んでいないという現状があります。一方で、経済産業省は「METI DX」の中で次のように述べ、政府のデジタル化を推進することを示しております。

行政手続はいまだに大量の紙の資料、窓口での対面手続、手続完了までの長い時間等、多くの負担を国民に強いている。政府は今や一番のお荷物になっていると言っても過言ではない。

https://www.meti.go.jp/policy/digital_transformation/article01.html

このように現状の日本では、まだまだ政府や自治体のデジタル化を図り、行政サービスのより簡単かつ便利な利用を実現する余地があると言えます。しかし、単純なデジタル化であれば、各行政機関・自治体が個別に取り組めば済む話です。

デジタル庁に期待する役割

デジタル庁としては各行政機関・自治体による個別最適化されたデジタル化ではなく、全体最適されたデジタル化を主導してもらいたいと考えています。また、そうでなければデジタル庁を設立する意義はないとも言えます。

具体的には、以下のような取組を進めてほしいと考えております。

ディスラプト

まずは、デジタル化云々以前に不要な業務・手続を”やめる”ことが最も重要なことだと思います。その代表的なものが「ハンコ」です。デジタル庁創設に向けた閣僚会議において、河野行政改革担当大臣が日本のハンコ文化を見直す必要性について、このような見解を述べたといいます。

 「ハンコをすぐなくしたい。ただハンコを押したという事実が必要なケースは、すぐにでもなくしてしまいたい」

さらに河野大臣は、自身のTwitterで「銀行印が必要なものや法律で押印が定められているものなど、検討対象は若干あるが、大半は廃止できる」との見方を示しています。

「ハンコ」というのはあくまで一例に過ぎないのですが、今まで法律や規則において求められてきた業務・手続きを見直し、抜本的になくしてしまう、ということをデジタル庁には期待したいと考えています。

ワンスオンリーの実現

行政手続において同じような内容の書類を何枚も書いて提出することに面倒さを感じたことがある人は多いと思います。既に行政に提供した情報を繰り返し提供するということは非常に無駄なことです。

これには大きく2つの課題があります。

1つは行政機関内での情報の連携ができていないということです。各省庁、行政機関、自治体に提供した個人の情報が1人の人物の情報として紐づけられていないのです。そのため、行政サービスを受ける際には都度情報提供が必要となってしまいます。このような課題を解決するために必要なのが「マイナンバーカードの活用」です。例えば、最も電子政府化が進んでいるエストニアでは、国民に保有が義務付けられている「eIDカード」により、様々な行政サービスを受けることができます。このような事例に倣って、マイナンバーカードにあらゆる個人情報を紐づけ管理し、省庁、行政機関、自治体において瞬時に検索できるようにする必要があります。しかし、そもそもマイナンバーカードの普及率が2割程度ということもあり、なかなか個人情報の一括管理を推進できない事情があります。デジタル庁には、マイナンバーカード普及に向けた啓蒙、マイナンバーカードを活用した個人情報の一括管理を主導することを期待しています。

2つめの課題は、政府へ情報を提供することに対する私たち国民の抵抗感です。個人情報が政府によって管理され、様々な行政機関に連携され、広がっていくというのは少し嫌な気分がすると思います。言葉で上手く説明することが難しいのですが、情報が悪用されないと分かっていたとしても、自分の個人情報が様々な行政機関で閲覧可能な状態にあることには不安があるものです。このような私たち国民の意識を自ら変えていくということももちろん重要だと思います。その一方で、行政側には、情報が一括管理されることにより得られる利便性、リスクを明らかにした上で、情報がどのように連携されるか、どのように管理されるのかをきちんと国民に説明する必要があります。デジタル庁にはこのような役割を担ってもらいたいと考えています。

行政プラットフォームの確立

新型コロナウイルスに係る特別定額給付金では、各自治体が個別にサイトを用意し、手続きについて解説を行っていました。しかし、全国的に同様の手続きを取る制度において、自治体ごとにホームページを準備する必要があるのでしょうか。各自治体のサイトが乱立したことにより目的のサイトにたどり着くのに苦労するという弊害もあると思います。

上記はあくまで一例ですが、全国的に共通な行政手続・事務処理において自治体で仕様やルールが少しづつ異なっていることにより、行政スタッフや住民にとっては余計な手間がかかり、ミスが発生する原因にもなっています。また、自治体の情報システムは、これまで各自治体が独自に構築・発展させてきた結果、その発注・維持管理や制度改正対応などについて各自治体が個別に対応しており、人的・財政的負担が生じています

このような行政手続・事務処理、システムを統一・標準化することにより、行政プラットフォームを確立し、国民は行政プラットフォームを通じて行政手続を実施できるようにする。これにより、国民のみならず、行政スタッフの事務負担を大きく軽減することができると思います。

まとめ

上記を簡単にまとめるとあるべき行政の姿は下図のようになると思います。行政はこれまで個別最適によるデジタル化が進み、結果的に大きな効率化や負担の軽減はできていませんでした。デジタル庁が創設されれば、行政全体を俯瞰し全体最適を実現する抜本的な改革を行うことを期待します。また、私たち国民もそのような変革に対して早期に対応するリテラシーを身に着けていく必要があると思います。

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この記事を書いた人

Junyaと申します。都内のコンサルティングファームで働いております。まだまだ若輩者ですが、私の得た経験や感じたことを本ブログで紹介できればと思います。
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