EdTechのもたらす価値と未来

EdTechとは

EdTechとは、教育(Education)とテクノロジー(Technology)を組み合わせた言葉で、「教育におけるAI、ビッグデータなどのさまざまな新しいテクノロジーを活用したあらゆる取り組み」と定義されています。

EdTechの国内市場は拡大を続けており、2023年には3,000億円を超える見込みです。(野村総合研究所予測)後ほど詳述しますが、新型コロナウイルス感染拡大の影響により、市場の成長はさらに加速すると思われます。

EdTechは、2000年代中頃に登場し、その発展は大きく3つのフェーズに分けることができます。

今後、EdTechは単にリアルで行っていた授業をオンラインで行うことにとどまらず、テクノロジーを活用し、個人の学習能力に応じ、最適なクラス・カリキュラムを提供する「アダプティブラーニング」が発展していくことが見込まれます。

新型コロナウイルスによるEdTechへの影響

さて、少し話は移りますが、新型コロナウイルス感染拡大を受け、政府は全国の小中学校・高校、特別支援学校に対して休校を要請しました。突然の休校要請のため、多くの学校は休校期間中の生徒・学生の自宅学習の準備ができていないという状況がありました。このような状況を受け、多数のEdTechサービス事業者がサービスを無償提供する動きが活発化しております。

経済産業省では「#学びを止めない未来の教室」と称して無償で利用な可能なEdTechサービスを紹介しております。既に無償提供期間が終了したものもありますが、約80ものサービスが掲載されており、学校における活用が進んでいます。
未来の教室 ~learning innovation~:https://www.learning-innovation.go.jp/covid_19/?t=5

また、文部科学省は「GIGAスクール構想」の前倒し実現に向け推進する方針を表明しております。

GIGAスクール構想:義務教育を受ける児童生徒のために、1人1台の学習者用PCと高速ネットワーク環境などを整備する5年間の計画

GIGAスクール構想の実現について:文部科学省

新型コロナウイルス感染拡大の影響を受け、今までテクノロジーの活用が進んでいなかった学校教育においてICTツール・サービスを活用する動きが圧倒的に加速したと言えます。また、この動きは、学校教育のみならず、学習塾・資格学校等、教育・学習の業界全体になることが予想されます。但し、このトレンドが新型コロナウイルス収束後も継続するかは、EdTechサービスが高い価値を提供し、教育・学習の提供者(教師等)と利用者(生徒・学生等)の双方が以前の教育・学習の形態よりもメリットを感じられる必要があると考えます。

EdTechの活用事例

【奈良県・奈良市】 県・市の連携プレーで「学びを止めない」。オンライン学習のスピードスタート ■取材日:5月5日(火)

奈良市では独自の判断と奈良県との強い連携を背景に力強くオンライン学習環境の整備を進めてきました。4月には全小中学校でビデオ会議システムを試運用し、5月には、Googleの教育向けクラウド型サービス「G Suite for Education」(以下「G Suite」)の導入と、必要な家庭への機器の貸し出しを実現しています。現時点で5月31日までの休校が決まっており、中学校から順次「G Suite」の利用をスタートし、双方向授業などに活用する予定です。

EdTechの価値

EdTechは我々にどのような価値をもたらすのか、教育・学習の提供者(教師・講師等)と利用者(生徒・学生等)の立場双方で考えてみたいと思います。

まずは、EdTechの類型について詳細に見ていきたいと思います。

オンラインラーニング

通信回線・モバイル端末の発展により、オンライン上で世界中の人たちを対象に授業・講義を行うことができるようになりました。また、海外の有名大学の授業を自国にいながら受けることができるようになりました。時間・場所に問われず、様々な授業を受けることができるというメリットの他、より安価に高品質な授業を受けることができるというメリットがあります。

更に、免許を持つ「先生」、「教授」といった地位を持つ者ばかりでなく、特定の領域に深い経験・スキルを持つ一般的な人たちがより簡単に知識・ノウハウをオンライン上で提供できるようになりました。いわゆる「CtoC(Consumer to Consumer)」で教育・学習の機会を生み出しました。

アクティブラーニング

旧来のオンラインラーニングでは、録画した授業内容を利用者が見るという形態が多かったのですが、学習ツールの発展により、リアルタイムでの授業・講義の提供、受講者からのリアクションの発信、受講者同士での議論という双方向でのやり取りが可能となりました。

生徒が授業を「聞く」受動的な学習だけではなく、「考える」、「発信する」という能動的な学習が可能となりました。生徒にとっては学習モチベーションの向上、思考能力の向上といったメリットがあり、教師にとっては生徒の正しい評価、授業のより良い改善に活用できるといったメリットがあります。

アダプティブラーニング

伝統的な学校教育では、全生徒に一律に同じカリキュラム・課題を課し、取り組ませることが一般的でした。しかし、生徒ごとに得意・不得意があり、学習のスピードも異なるという観点から個々の学習効率を最大化するには最適な方法ではありませんでした。

そこで、個人の学習進捗度・理解度に合わせた個別最適化されたカリキュラム・課題を提供しようとする動きが進められています。アダプティブラーニングを実現するため、テクノロジーは次の2点で活用されています。

①個人の学習履歴・成果等データの管理

「どの大学」を出たのか、という「学歴」情報だけでなく、「大学で何を学んだのか」、「どのような成果を残したのか」という詳細な「学習歴」を管理を行います。

②個人データに基づくAIによる最適なカリキュラム・課題の抽出

上記の「学習歴」に基づき、AIに基づき、大量のカリキュラム・コンテンツから個人の学習効果を最大化する最適なものを抽出します。

上記の分類に基づくと、それぞれの価値は次のように定義することができます。

代表的なEdTechサービス

EdTechに取り組む企業は、国内外で多数存在し、学習コンテンツ自体を提供する企業もあれば、学習を支援するためのソーシャルメディア運営・カリキュラム提案といった学習サポートを提供する企業もあります。

すべてを本記事で紹介することは難しいのですが、下記のサイトにEdTech企業のカオスマップが掲載されているので、是非参照ください。

スタディプラス:https://info.studyplus.co.jp/2018/04/02/815

TechCrunch:https://jp.techcrunch.com/2019/07/31/atama-plus-edtech/

以下では特に有名なEdTechサービスについてまとめます。

学校教育中心

大学講座・ビジネススキル・趣味等

上記のようにEdTechには様々なサービスがありますが、「教育・学習の提供者と利用者を繋ぐマッチングプラットフォーム」が大きな役割を担っています。自社で多様な学習コンテンツを提供するには限界があるため、外部の大学、企業あるいは個人を上手く活用し、「教えたい」ニーズと「学びたい」ニーズの最適なマッチングが、「教える機会」、「学ぶ機会」の拡大に大きく寄与すると考えられます。

その上で、「オンライン」「アクティブ」「アダプティブ」な学習を実現する学習形態を構築することが今後の企業に求められることだと思われます。

EdTechの課題

インフラ(ICT環境)の整備

EdTechを学校に適用するのであれば、生徒1人に1台コンピュータやモバイルデバイスの配布、通信環境の整備等が必要となる。しかし、現状教育用コンピュータ1台当たりの児童生徒数は平均で5.4人、無線LAN整備率は41.0%と整備が不十分な状態です(文部科学省「平成30年度学校における教育の情報化の実態等に関する調査結果」)。これらを完全に整備するとなると数千億円ものコストを要するとともに、財源が少ない地方等では整備が遅れてしまうという課題が生じます。結果として地域による教育格差が発生する可能性があります。

また、単にハードの面ばかりでなく、教師・生徒双方のITリテラシーの向上も必要となります。EdTechサービスを正しく利用するということは勿論ですが、重要な生徒の成績情報等を厳格に管理しなければなりません。

学習歴のデータ化・標準化

アダプティブラーニングを実現するためには、学習歴がデータ化されていることが前提となります。そのため、現状の紙で運用が行われている教育の学習歴をどのようにデータ化するのか検討が必要となります。また、EdTechサービスごとに学習歴のデータフォーマットが異なる場合、複数サービスを利用する個人の学習歴の一元的な管理が困難となります。また、評価基準も統一されていなければ、EdTechサービスごとに異なる判断が行われ、個人にとって最適な学習コンテンツを提供することができなくなってしまうという課題もあります。学習歴をきちんとデータとして保持した上で、他のサービスでも利用できるようにデータを標準化することが今後求められるでしょう。

不良コンテンツの排除

EdTechにより、個人が簡単に他人に教える機会を得ることができるようになり、豊富な学習コンテンツを利用することができるようになりました。その反面、良質なコンテンツばかりでなく、不良なコンテンツも増加することになります。可能であれば事前に、または事後にそのようなコンテンツを排除する仕組みが必要になります。例えば、「ストアカ」の講座レビュー機能は利用者が不良コンテンツを判断するための効果的な指標となります。事前に不良コンテンツを排除するには、講師の事前の審査や教える際の免許・資格等を設けることが考えられます。

EdTechの未来

EdTechによりもたらされる学び方の変化は大きく次の3つだと考えます。

①学習の多様化

EdTechにより学習の提供者・提供方法・提供内容は非常に多様になります。

学習の提供者は、教員免許を持つ教師や大学教授ばかりでなく、ビジネスパーソンや主婦(夫)というように広がりを持ちます。いずれは、企業や大学にも属さずとも、個人でカリスマ講師と呼ばれる学習の提供者が登場するでしょう。

提供方法では、コンピュータやスマートフォンにとどまらず、VR・AR・MR等XRを活用し、より実践的な内容をよりリアルに近い形で提供することが考えられます。

提供内容は、従来の教科だけでなく、STEAM教育をはじめとして様々な領域の学習を専門的に行うことが考えられます。既にプログラミング教育が必修化されるなど日本においてもその動きはありますが、社会の変化に応じて学習コンテンツは更に多様化していくことが予想されます。

※STEAM教育:科学(Science)、技術( Technology)、工学(Engineering)、数学(Mathematics)を重要視する教育

②EdTechサービスプラットフォーマーの台頭

現状、国内外に多数のEdTechサービス企業が存在し、提供されるコンテンツや学習歴管理の方法も様々であり、EdTechサービス間の連携は十分にできていません。これでは、複数のサービスを利用する際に、他のサービスのデータを活用できなかったり、自分が学びたいコンテンツがそのEdTechサービスになかったり、利用者にとって不都合な問題が生じます。そのような課題を解決すべく、EdTechサービス事業者をまとめ、シームレスな連携を実現するEdTechサービスプラットフォーマーが登場することが予想されます。利用者はプラットフォーマーを通じて自身の学びたいコンテンツを探索したり、自身の学習歴を様々なEdTechサービスに活用することができます。

③生涯学習(リカレント教育)

EdTechサービスにより、人々にとって学ぶ機会が身近になり、エンターテインメントを楽しむように学ぶことができるようになります。社会に出ても継続的に学習を行い、自分自身の能力を伸ばすことや、新しい領域へ挑戦・キャリアチェンジをするきっかけをつかむことができます。このような継続的な学習は、自分自身の人生の選択肢を増やし、より充実し、豊かな生活を送ることにも寄与すると考えられます。

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