2020年10月30日、総務省は「テレワーク先駆者」及び「テレワーク先駆者百選」の審査結果を発表しました。テレワーク先駆者には、テレワークによる勤務制度が整っている企業が選ばれ、テレワークの十分な利用実績がある企業が「テレワーク先駆者百選」に選ばれます。さらに、特に優れた取組を行った企業には総務大臣賞が与えられます。
近年の総務大臣賞
令和元年度 | アフラック⽣命保険(株)、シックス・アパート(株)、明豊ファシリティワークス(株)、リコージャパン(株) |
平成30年度 | 向洋電機⼟⽊(株)、⽇本ユニシス(株)、フジ住宅(株)、三井住友海上⽕災保険(株)、(株)WORK SMILE LABO |
平成29年度 | (株)NTTドコモ、 (株)沖ワークウェル、 ⼤同⽣命保険(株)、⽇本マイクロソフト (株)、 ネットワンシステムズ(株) |
令和2年度には、江崎グリコ、キャスター、チューリッヒ保険、富士通、⼋尾トーヨー住器が総務大臣賞に選ばれました。
コロナ禍においてテレワークの活用が広まる中、このような先進的な企業の取組は非常に学びになると思います。本記事では、こちらの5社の取組について詳しく見ていきたいと思います。
江崎グリコ
会社名:江崎グリコ株式会社
設立:1929年
事業内容:菓子、冷菓、食品、牛乳・乳製品の製造および販売
従業員数:連結/5,364人 単体/1,525人 (2019年12月末現在)
売上:連結/288,187百万円 単体/205,383百万円 (2019年12月末現在)
グリコでは、2018年に多様な働き方、生産性向上を目的としてテレワーク制度を導入しました。2019年度に月1回以上テレワーク制度を利用した割合は平均37.1%でした。
コロナ禍においては、グリコグループ全体で必要最低限の出社に制限し、約8割が在宅勤務を行っています。また、グリコでは健康経営の一環として、歩き方セミナー、睡眠の質を高めるセミナーやヨガ教室等を実施していましたが、現在はオンラインでの実施が行われているようです。また、在宅勤務での運動不足の解消のため、家でできる簡単なストレッチや運動に関する動画も配信しているようです。
グリコでは、在宅勤務でも社員が健康に働けるように健康に関するセミナーの実施やストレッチ・運動の促進といった取組が特徴的です。
キャスター
会社名:株式会社キャスター
設立:2014年9月
事業内容:オンラインアシスタントをはじめとした人材事業運営
従業員数:318人 (2019年8月末現在)
売上:941百万円 (2019年8月末現在)
自社従業員のテレワーク推進
同社は「リモートワークを当たり前にする」をミッションとして、従業員のほぼ全員がリモートワークを実施しています。2019年8月時点では社員318名中310名(97%)がテレワークを利用し、実施者は平均して月20回テレワークを利用しています。キャスターの拠点は全国4拠点のみであるにもかかわらず、従業員は全国41都道府県に居住していることから、テレワークが活用されていることが分かります。
他企業のテレワーク支援
キャスターは自社の従業員のテレワークだけではなく、他企業のテレワークの支援をサービスとして提供しています。バックオフィス業務などをオンラインで代行するアシスタントサービス「CASTER BIZ」は2,000社以上の企業が導入しています。
キャスターでは下記3つの事業を軸に19のサービスを提供しています。
- オンラインアシスタントサービス「CASTER BIZ」をはじめとしたBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)事業
- 企業のリモートワーク導入をサポートするリモートワークサポート事業
- リモートワークをより効率的・セキュアに行うためのソフトウェアを提供するリモートワークソフトウェア事業
地域でのテレワーク推進
また、キャスターは地域でのテレワーク推進、ワーケーションの取組も積極的に進めています。2020年10月19日に宮崎県椎葉村とリモートワーク推進に関する協定をWeb完結型クラウド契約サービス「クラウドサイン」により締結し、椎葉村の活性化を進めていくことを掲げています。椎葉村での取組をモデルケースとして他の地域でもリモートワークの普及・推進を計画しています。
以上のようにキャスターは、コロナ以前より非常に多岐にわたるテレワークの取組を進め、「リモートワークを当たり前にする」活動を行っています。6年間に及ぶリモートワークの実績により、リモートワークを支援するオンラインアシスタントサービスという領域では、他企業に対する優位性を持っているといえます。
チューリッヒ保険
会社名:チューリッヒ保険会社
設立:1986年7月
事業内容:損害保険業
従業員数:1,140人 (2020年3月末現在)
売上:38,882百万円 (2019年度日本支店)
チューリッヒ保険では、2020年4月8日より個人情報を取り扱うためテレワーク化が難しいコールセンター部門を含む全部門でテレワークを導入しています。緊急事態宣言の中、オペレーター約850人の内95%が在宅勤務に移行しました。
オペレーターは仮想デスクトップを利用することにより、顧客情報は社内サーバー上に集約管理され、オペレーターの使用する端末には保存されません。また、顧客からの電話についてはチューリッヒのPBX(電話交換機)が起点となり、オペレーター個人のスマートフォンと顧客の回線を繋ぎ電話対応を行っています。(下図参照)
出所:チューリッヒ保険
また、オペレーターとは事前に誓約書を交わし、端末画面を覗き見されないような環境を整備することを義務付け、電話の対応状況をモニタリングすることにより、個人情報のセキュリティを確保しています。
個人情報を取り扱うため、実現が難しいとされるコールセンター業務のテレワーク化により、オペレーターの健康と雇用を守る素晴らしい取組であると同時に、他の消費者向けサービスを提供する多くの企業が参考にできる取組なのではないでしょうか。
参考:保険主要各社のコールセンター運営状況
企業 | コールセンターの勤務状況 |
あいおいニッセイ同和損害保険 | オペレーターのテレワークは実施していない。30-40%に規模を縮小し、フロア移動を制限。テレワーク導入は検討中 |
ソニー損害保険 | オペレーターのテレワークは実施していない。規模を縮小し、席と席の間にパネルを設置 |
損害保険ジャパン | オペレーターのテレワークは実施していない。出社人数を最小限に制限。テレワークのトライアルを検討中 |
東京海上日動火災保険 | オペレーターのテレワークは実施していない。テレワーク導入は検討課題として認識 |
三井住友海上火災保険 | オペレーターのテレワークは実施していない。6月までのテレワーク導入を計画している |
かんぽ生命保険 | オペレーターのテレワークは実施していない。テレワーク導入予定はない |
住友生命保険 | オペレーターのテレワークは実施していない。規模を縮小し、営業活動を自粛している支店でも電話対応を行う |
第一生命保険 | オペレーターのテレワークは実施していない。席を間引いて運営 |
日本生命保険 | オペレーターのテレワークは実施していない。人員を50%に縮小して運営 |
明治安田生命保険 | オペレーターのテレワークは実施していない。2-3交代制にして運営。テレワーク導入の予定はない |
出所:日経クロステック
富士通
会社名:富士通株式会社
設立:1935年6月
事業内容:テクノロジーソリューション/ユビキタスソリューション/デバイスソリューション
従業員数:129,071名(2020年3月31日現在)
売上:3,857,700百万円 (2019年度連結売上)
富士通はニューノーマル時代における新たな働き方として「Work Life Shift」というコンセプトを打ち出し、テレワークを勤務の基本形態とし、オフィス面積を今後3年間かけて50%に削減することを発表しました。(2020年7月6日)
国内8万人の従業員を対象として、7月21日から全社員でフレックス勤務を原則とし、通勤定期券を廃止しました。その代わり、テレワーク環境整備補助「スマートワーキング手当」を月額5,000円を支給します。さらに単身赴任者を自宅勤務に切り替えていきます。
さらにオフィスを3種類に再編します。これらのオフィスを使い分け、仕事の目的、個人のライフスタイルに合わせた最適な働き方を実現します。
- Hub Office:主要拠点に設置し、多様な人材が集合しイノベーション創出を目的としたオフィス。
- Satellite Office:自宅最寄りのオフィスとして従業員の居住エリアに設置。在宅勤務に疲れた社員などが、高性能な設備が整備された快適な環境で働けるオフィス。
- Shared Office:都心や郊外の駅前に設置されているシェアドオフィス。限られたメンバーでの討議や短時間での集中して業務を行うためのオフィス。
富士通では、単純にテレワークという枠組みでの変化ではなく、従業員の働き方を抜本的に見直す大きな改革に取り組んでいます。小規模な企業であれば実現も容易かもしれませんが、富士通という国内8万人もの従業員を抱える企業が実現するには、非常に多くの時間と費用がかかります。しかし、それだけに社会に非常に大きな影響を持ち、この新しい働き方が国内のニューノーマルとなることも十分にあり得ると思います。
⼋尾トーヨー住器
会社名:八尾トーヨー住器株式会社
設立:1974年11月
事業内容:住宅用建材・住宅設備機器・エクステリア建材・外装建材・太陽光発電システム
ビル用建材・木造軸組構造体などの販売
従業員数:134名
売上:6,959百万円 (2019年度)
八尾トーヨー住器では、2019年に「テレワーク宣言」を行い、事業所のサテライトオフィス化、フリーアドレス化を推進してきました。その中で、次の取組が評価され、総務大臣賞を受賞したとのことです。
- テレビ会議の導入やサテライトオフィス、モバイルワーク活用により移動時間を削減(残業時間削減:2017年度→2019年度で63%減)
- 出産や介護などのライフイベントによる離職者ゼロ
- 中古住宅や古民家を活用したサテライトオフィスの導入で空き家対策と地域の魅力向上に寄与
テレワークというと大企業やベンチャー企業、都心の企業の取組と思われがちですが、このような地場の中小企業でもITツールの活用によるテレワークの実現を行っています。中小企業だから、古い企業だから、といって思考停止になることなく、八尾トーヨー住器の取組を模範として、他の企業でも積極的に取り組んでいくことができるのではないでしょうか。
まとめ
以上、「テレワーク先駆者百選 総務大臣賞」に選ばれた江崎グリコ、キャスター、チューリッヒ保険、富士通、⼋尾トーヨー住器の5社について見てきました。テレワークと一口に言っても様々な取組があることがわかります。コロナ禍により、従来のオフィスに出勤するという働き方から変化を余儀なくされた現在において、テレワークという枠組みだけではなく、個人のライフスタイルに沿った働き方の実現を模索することが今後求められると思います。
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