スーパーアプリの概要、代表例、普及の背景、マネタイズ方法 -Xのスーパーアプリ化は成功するのか

イーロン・マスク氏がTwitterを買収し、度々Xのスーパーアプリ化について言及されています。色々と混乱を引き起こしているXですが、日本のユーザーは米国に次いで多く、今後のサービスの方向性について関心の高い人も多いのではないでしょうか。

本記事では、スーパーアプリについて解説の上、Xのスーパーアプリ化が成功するのか考察をしたいと思います。

目次

スーパーアプリとは

スーパーアプリとは、メッセージングや決済、ショッピング、タクシー配車、フードデリバリーなど、日常生活でよく利用する機能をまとめて提供しているアプリのことです。ユーザーは、1つのアプリでさまざまなサービスを利用することができます。スーパーアプリ内で提供される各サービスのアプリをミニアプリといいます。

スーパーアプリには通常のスーパーアプリとサードパーティープログラム付随型スーパーアプリがあります。

通常のスーパーアプリの特徴は、1つのアプリ内に複数の機能が存在し、多くの場合、特定企業の決済システムを利用します。GojekやGrabなどがその例です。

サードパーティープログラム付随型スーパーアプリは、アプリ内で動作するプログラムをサードパーティーが開発することができます。WechatやAlipayなどがその例です。サードパーティーがスーパーアプリ内でビジネスを展開する仕組みをつくることにより、機能・サービスが拡充されることが期待されます。

スーパーアプリの出発点

スーパーアプリになり得るサービスは、ペイメントMaaSコミュニケーションの3つに大別されます。

ペイメント

ペイメントは、スーパーアプリの基本的な機能と言えます。ペイメント機能を提供することで、サービス利用時の決済をスーパーアプリ内で完結することができます。また、銀行口座を保有しないアンバンクト(unbanked)と呼ばれる層に対して金融サービスを提供するという役割もあります。モバイル決済、電子マネーなどが該当します。

ペイメントを出発点とするスーパーアプリにはAlipayなどがあります。

MaaS

MaaSとは、Mobility as a Serviceの略で、モビリティをサービスとして提供することです。MaaS機能を提供することで、ユーザーは、移動に関するさまざまなサービスをスーパーアプリ内で利用しやすくなります。タクシー配車、カーシェアリング、レンタカー、交通機関の予約サービスなどが該当します。

MaaSを出発点とするスーパーアプリにはGojekやGrabがあります。

コミュニケーション

コミュニケーションは、メッセージングやSNSのサービスのことです。日常のコミュニケーションを支えるアプリとして存在することで、アクティブユーザーを増やすことが期待されます。

コミュニケーションを出発点とするスーパーアプリにはWeChatやLINEがあります。

主なスーパーアプリ

2024年現在、代表的なスーパーアプリとしては以下のものが挙げられます。

スクロールできます
スーパーアプリ
(企業名)
出発点主な提供サービスユーザー数
Alipay
(アリババ)
中国ペイメントクレジットカード
銀行口座管理
P2P送金
携帯電話プリペイド
バス・鉄道チケット
フードデリバリー
配車サービス
保険 など
約8億人
WeChat
(テンセント)
中国コミュニケーションテキストメッセージング
ビデオコール
商品・サービス購入
送金
休日の計画 など
約13億人
GoJek
(GoJek)
インドネシアMaaS配車サービス
ライドシェア
モバイルペイメント(GoPay)
EC
約1.7億人
Grab
(Grab)
シンガポールMaaS配車サービス
ライドシェア
モバイルペイメント(GrabPay)
フードデリバリー
約1.8億人
LINE
(LINEヤフー)
日本コミュニケーションテキストメッセージング
モバイルペイメント(LINE Pay)
乗換案内
ショッピング
飲食店予約
約0.95億人

Alipay

Alipay(アリペイ)は、中国のオンライン決済サービス大手であるAnt Financial Services Group(アント・フィナンシャル・サービス・グループ)が運営するモバイル決済サービスです。2004年に中国でサービスを開始し、現在では世界100以上の国と地域で利用されています。

決済領域にでは、実店舗での買い物、オンラインショッピング、公共料金の支払い、交通機関の利用などに利用することができます。その他、タクシー配車、飛行機の予約、保険サービス、健康管理など様々なサービスがあります。

WeChat

WeChat(ウィーチャット)は、中国に本拠を置く大手IT企業テンセントが2011年にリリースした無料のメッセージアプリです。中国国内のみならず、全世界にユーザーを増やし続けています。PC・スマートフォンでの利用が可能で、中国では日常メッセージのほとんどがWeChatで行われており、日本でいうLINEのような存在です。

メッセージアプリとしては、メッセージの送受信、音声通話、ビデオ通話、グループチャットなどを利用することができます。その他、フードデリバリー、映画、航空券などのチケット購入、ゲーム、ニュース配信などのサービスがあります。

GoJek

Gojekは、インドネシアのテクノロジー企業であるGoJekが2015年にリリースした配車アプリです。GoJekは、インドネシアの生活に欠かせないサービスとして、急速に成長しています。また、東南アジアの他の国にも進出しており、今後もその影響力は拡大していくことが予想されます。

GoRideやGoCarと呼ばれるバイクやタクシーの配車サービスの他、フードデリバリー、クリーニングサービス、マッサージサービスがあります。また、モバイルウォレットとしてGoPayを提供しており、インドネシアの主要銀行と統合されており、銀行からGoPay残高をチャージすることもできます。

Grab

Grabは、マレーシアに本社を置くテクノロジー企業Grabが2013年にリリースした配車アプリです。東南アジアの主要都市で生活する人々の生活に欠かせない存在となっています。

バイクやタクシーの配車サービスの他、フードデリバリーサービス、食料品や日用品の配達サービスを提供しています。その他、金融サービスとしてドライバー向けの小口融資や小額投資サービスなども開始しています。

LINE

LINEは、元は韓国のネイバージャパンが開発・運営するモバイルメッセージングアプリで、2011年6月23日に日本でサービスを開始しました。その後、2023年10月1日にZホールディングス株式会社、ヤフー株式会社、LINE株式会社、Z Entertainment株式会社、Zデータ株式会社の5社が合併したLINEヤフー株式会社が運営しています。

メッセージングサービスの他、決済、ニュース、音楽、ゲームなどを提供しています。かつてはLINEデリマとして、フードデリバリーサービスを提供していましたが、2020年12月20日をもってLINEデリマのサービス運営が終了し、「出前館」とサービス統合が行われました。

中国や東南アジアで普及した背景

現状、スーパーアプリが特に普及しているのは中国や東南アジアなどですが、他の先進諸国よりも先行して普及が進んだ要因として以下のようなものがあります。

リープフロッグ

中国や東南アジアでは、従来のインフラやデバイスが普及する前に、インターネット・スマートフォンが一気に普及したという背景があります。これをリープフロッグ現象といいます。

社会インフラが未成熟な環境の中、スマートフォンで利用できる新たなアプリやサービスが次々と登場し、爆発的にスマートフォンユーザーが増加しました。そして、生活のシーンすべてで活用できる利便性の高いスーパーアプリが普及してきたと考えられます。

逆に日本や欧米においては、PCや固定電話回線がすでに普及していることにより、これらの既存インフラとの整合性を保ちつつ、モバイル端末を展開する必要があるため、中国や東南アジアと比較して緩やかに普及してきたと考えられます。また、日本や欧米においては各サービスが独立して存在し、それぞれが強力なサービスとして多くのユーザーを保有していることから、一つのスーパーアプリに集約されるということが難しかったと思われます。

アンバンクト(unbanked)の存在

中国や東南アジアでは、信用力が不足しているなどの理由で、アンバンクト(unbanked)と呼ばれる銀行口座を保有しない人が比較的に多いです。

The Global Findex Database 2021

そのような口座を保有しない人に対して、決済サービスを提供することでスーパーアプリが爆発的に普及しました。配車サービスからスタートしたGojekに関しても、インドネシアのアンバンクト(unbanked)層に対して「GoPay」という独自の決済サービスを提供しています。

各種規制の未整備

中国や東南アジアでは、各種事業や個人情報関連の規制が比較的緩いことがスーパーアプリの普及の要因として考えられます。

日本においては、業法として業種ごとの基本的な事業要件を定める法律が定められており、その業界でサービスを提供するには許認可が必要になるなど新規参入のハードルが高いです。中国や東南アジアでは、そのような規制が比較的緩いため、スーパーアプリとして企業が様々な業界でのサービス提供を可能としているのです。

また、個人情報関連の規制も整備されておらず、個人情報やパーソナルデータを取得し、活用しやすい環境であったこともスーパーアプリを加速させる一因となっています。サービスを通じて収集された顧客のID情報、位置情報、注文履歴などは、データ分析を通じて新たなサービス開発、マーケティングに活用されます。そして顧客体験が更に向上し、ユーザーが増加、更にデータが集まるという循環を生み出すことで、他のアプリに対して優位性を保つことができるのです。

スーパーアプリのマネタイズ

スーパーアプリについては、ユーザー数をいかに増やすかが成功の鍵となります。そのため、アプリのダウンロードや利用を有料化するということは基本的には難しいです。

現在のスーパーアプリのマネタイズ方法は、金融サービスを通じた手数料収入が主体となっています。その他、広告収入やサブスクリプション収入などもあります。

金融サービスを通じた収入

各種ペイメントサービスの決済手数料、金融商品提供による金利・手数料収入などで収益を得る方法です。スーパーアプリ内でのありとあらゆるサービス利用における決済を抑えることによって、大きな収益を確保することができます。現状のほとんどのスーパーアプリでは決済機能を備えており、金融機能を通じたマネタイズが主流なものであると考えられます。

広告収入

ユーザーデータを活用し、スーパーアプリ内で最適化された広告を配信することで、企業からマネタイズする方法です。LINEでは、広告を配信していることから広告掲載料などからもマネタイズしていることが考えられます。

サブスクリプション収入

スーパーアプリの一部のサービスや機能に、月額または年額の料金を徴収することで、サブスクリプション型での定額収益を得ることができます。LINE MUSICなどはサブスクリプション型での収益モデルといえます。

Xのスーパーアプリ化は成功するのか

X(旧Twitter)についてもスーパーアプリ化の構想が度々発表されています。

2023年4月13日には、スラエルを拠点とする仮想通貨や株の取引を行なうサービス「eToro」との提携が発表されました。これにより、XのユーザーがeToroを介しての金融資産の取引が可能になるとのことです。

eToro partners with Twitter $Cashtags to further financial education

最近では、2024年に個人間で送金する機能を開始することが発表されました。SNSのXを決済などに使いやすくすることで、アプリ上での物品やサービスの売買を促すことが目的のようです。

Xが個人間送金 万能アプリ化へ金融強化、24年前半に

では、Xのスーパーアプリ化は成功するのでしょうか。個人的にはいくつかのハードルがあると考えています。

匿名アカウントの多さ

まず、Xのユーザーは匿名アカウントが非常に多いということが一つのハードルといえます。Xのユーザー数の増加の一因として、匿名で手軽に登録できるという特徴があります。そして匿名だからこそ、多くの情報をXに登録したくないと考える人がおそらく多いと思います。そのため、決済機能を備えたとしても銀行口座情報やクレジットカードの情報を登録する人はそれほど多くはないのではないかと考えております。

どの国で展開するか

Xの現状のユーザーが多い国上位1、2位は米国、日本です。そのため、中国や東南アジアにおけるリープフロッグ型の普及というのは難しいと考えられます。特に米国や日本では既に多様な決済サービスが存在するため、Xに決済機能を具備したとしても、突出した魅力がなければ利用はそれほど見込めないかもしれません。

そのため、どの国を中心にサービスを展開するかも一つの論点になるかと思います。例えば、Xの利用が3番目に多い国はインドですが、インドでは銀行口座を保有しないアンバンクト(unbanked)の層が非常に多いです。これらアンバンクト(unbanked)をターゲットに決済サービスを展開することは可能性として考えられます。

The Global Findex Database 2021

法規制への対応

各国の法規制への対応も必要となります。日本においては業法が存在するため、各領域のサービスを提供するためには自社で法律要件をクリアするか、他の事業者と提携するなどが必要になります。

また、欧州や米国についてはパーソナルデータの規制が強いため、データの取得・活用へのハードルも高いです。そのため、データを活用して他のスーパーアプリなどよりも優位性の高いサービスを生み出したり、マーケティングを行ったりするのは難しいかもしれません。

まとめ

以上、スーパーアプリの概要とXのスーパーアプリ化について見てきました。前述したとおり、中国や東南アジアにおいては特別な背景が存在したため、代表的なスーパーアプリが多くのユーザーを獲得することができました。一方で、米国や日本においてはまた事情が異なるため、これらの国でスーパーアプリを展開するには、更なるドライバーが必要になると思います。そういう意味では、Xが単純に機能を追加したとしてもスーパーアプリとしての地位を確立するのは難しいというのが私の見解です。

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この記事を書いた人

Junyaと申します。都内のコンサルティングファームで働いております。まだまだ若輩者ですが、私の得た経験や感じたことを本ブログで紹介できればと思います。
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