新型コロナウイルスにより中食※の需要が拡大したことにより、Uber Eatsや出前館といったフードデリバリーサービスの利用が増加しています。
※中食=弁当・総菜などの調理済み食品を購入し、自宅で食べること。
感染リスクを低減するため三密を避け、食事を楽しむことができるフードデリバリーサービスは今後も需要は拡大することが予想されます。大手企業、スタートアップもこの事業機会を逃すまいと、同市場への参入、事業強化を行っていくことが見込まれます。
本記事では、フードデリバリーサービスの市場、ビジネスモデル、主要企業を概観し、今後事業者が取り組むべき課題についてまとめていきたいと思います。
新型コロナウイルスによる食生活の変化
新型コロナウイルス感染拡大の影響を受け、「デリバリーサービス」や「テイクアウトサービス」の利用が増加する一方で、「飲食店の店内での飲食」は大きく減少しています。
出所:ニッセイ基礎研究所「第2回 新型コロナによる暮らしの変化に関する調査」
ホットペッパーグルメ外食総研の調査によると、2020年4-7月の外食市場規模は前年比で-59.7%減少しています。その一方で、中食市場規模は前年比で+23.7%と増加しています。
緊急事態宣言が発令され、飲食店の営業自粛がされていた5月の中食の市場規模は1,418億円と大きく拡大していることが分かります。
出所:ホットペッパーグルメ外食総研
これらのデータから新型コロナウイルスの影響により、飲食店の店内で食事を行う外食の需要は減少し、デリバリー、テイクアウトといった中食の需要が拡大していることが分かります。3密を回避しながら食事を楽しめる中食市場は、外食市場を取り込みつつ今後も拡大していくことが予想されます。
フードデリバリーサービスのビジネスモデル
フードデリバリーサービスの類型
フードデリバリーサービスには「レストラン・デリバリー」、「セントラル・キッチン」、「ミールキット・デリバリー」、「グローサリー・デリバリー」のような類型があります。
名称 | レストラン・ デリバリー | セントラル・ キッチン | ミールキット・ デリバリー | グローサリー・ デリバリー |
概要 | 既存のレストランと提携し、各店が作った料理を配達するサービス。 | 自社で調理、あるいは、フリーランスのシェフと提携するなどして作らせた料理を配達するサービス。 | 調理済みの料理ではなく、食材を配達するサービス。食材は切られた状態で配達されるため、調理に手間はかからない。 | スーパーの食品を自宅に配達するサービス。 |
特徴 | 様々なレストランから様々なメニューを選択することができる。 | メニューの選択肢は限定されるが、健康食に特化したり迅速な配達をウリにしたりと独自性を出しやすい。 | 楽しみながら自宅で本格的な料理を作ることができる。 | 自宅にいながらスーパーの食品を購入でき、選択肢の幅も広い。 |
企業例 | Uber Eats(米) Grubhub(米) 出前館(日) | からだ倶楽部(日) | Blue Apron(米) HelloFresh(独) Gobble(米) | instacart Twidy honestbee |
ここでは、日本において特に注目されているレストラン・デリバリーについて深く検討したいと思います。
レストラン・デリバリーのビジネスモデル
レストラン・デリバリーのビジネスモデルは下図の通りです。サービスによって差分はありますが、フードデリバリー事業者が提携飲食店に代わり、出前の注文を受け、配達を行う。そして、手数料を注文料金から収受するという点はどのサービスも同一だと思います。
レストラン・デリバリーサービスには大きく3つのポイントがあります。
- 広いメニュー選択の幅
消費者はフードデリバリー事業者のアプリやウェブサイトを通じて、事業者と提携している飲食店のメニューを選択することができます(配達不可能地域等の制限はありますが)。自前で出前を行っていないレストランのメニューも選択することができ、レストラン・デリバリーを利用することでメニュー選択の幅が圧倒的に広がります。
また、このメリットは、飲食店からみると自店のメニューをより多くの消費者に認知させ、提供することができるということを意味し、広告宣伝・販路拡大の恩恵をもたらします。 - 簡単な注文・決済
消費者はフードデリバリー事業者のアプリやウェブサイトを通じて、注文・決済を完了させることができます。都度、各店舗に電話したり、ウェブサイトに会員登録をしたりする必要はなく、事業者のアプリ・ウェブサイトで簡単に注文・決済を行うことができます。
飲食店も自ら受発注のシステムを構築したり、管理・維持したりする必要はなく、手軽に出前サービスを始めることができます。 - 配達人による配達
料理の配達もフードデリバリー事業者が担いますが、配達人には大きく①直営、あるいは、法人のパートナーを利用する場合と、②副業を行いたい個人等を利用する場合があります。
①の場合、事業者が配達や接客の研修を義務付けているため、配達の品質を保つことができます。一方で配達能力が不足する課題があります。
②の場合、配達能力を確保しやすい一方で、研修等を受けていない個人が配達を行うため、配達品質を保つことが難しいという課題があります。
フードデリバリーサービスの主要企業
Uber Eats
Uber Eatsはライドシェアサービス「Uber」で有名な米Uber Technologiesが運営するフードデリバリーサービスです。
開始時期 | 2014年(開始当初は「UberFRESH」という名称だった) 日本では、2016年にサービス開始 |
展開エリア | 世界36カ国500都市以上 日本では、東京、大阪、名古屋、福岡、京都など都市圏で展開 |
ユーザー数 | 非公開 |
加盟店数 | 3万店以上 |
手数料 | 総売上の35% |
直近の業績を見てみると、新型コロナウイルスの影響により、ライドシェアサービス「Uber」のMobility事業売上は大きく減少していますが、Uber EatsのDelivery事業の売上は大きく成長しており、2020.2Qでは12億ドルの売上(前年同期比+104%)を達成しています。
出所:Uber Technologies決算資料
マッチングプラットフォームによる配達パートナーの確保
Uber Eatsでは配達人を自社で雇用せずに、マッチングプラットフォームを提供し、副業を行いたい個人を配達パートナーとして活用します。注文が入ると店舗近くの配達パートナーに情報が通知され、配達パートナーが配達指示を受け配達を行います。
各プレイヤーのメリットは次の通りです。
- Uber Eats:必要な時のみに配達人を使用するため、人件費を抑えることができる。また、雇用はしないので教育費用や運営費用を抑えることができる。
- 飲食店:店舗近くの配達パートナーを利用するため迅速に配達を行うことができる。
- 配達人:空き時間を利用し、働きたいときに働いて収入を得られる。単発仕事を請け負うギグワーカー(Gig Worker)という新しいワークスタイルを確立。
Uber Eatsのマッチングプラットフォームでは、注文の需要と配達人の供給のバランスにより、より高い配達料を得られる地域がヒートマップによりリアルタイムで表示されるようになっています。この仕組みにより、配達人はよりたくさん稼ぐため積極的に配達を請け負うようになり、Uber Eatsの配達能力を向上させています。
出所:Uber Blog(https://www.uber.com/blog/courier-surge-intro/)
評価制度による配達品質の向上
Uber Eatsでは、飲食店と利用客による配達人の評価システムがあります。配達のスピードや接客により判断されます。過度に低い評価を得ている場合には、Uberより改善するように連絡が来て、改善されない場合はアカウントが停止されます。
また、新しい報酬プログラム「Uber Eats Pro」が開始されました。このプログラムでは、配達実績に応じて、レストランでの特典と割引、安全装備の割引、パートナー サポート センターでの優先サービスといった特典を受けることができます。
出前館
日本初のフードデリバリーサービスで、幅広いジャンルの料理を提供しています。
ダウンタウンの浜田さんをCMに起用するなどブランディングも力を入れており、その認知率は70%に達しています。(出前館IR資料)
開始時期 | 1999年 |
展開エリア | 日本全国 |
ユーザー数 | 392万人 |
加盟店数 | 3.3万店舗 |
手数料 | 注文サービス利用料:商品代金の10% 注文・配達サービス料:商品代金の30% |
出前館事業はFY2020.2Qの売上は約32億円でしたが、新型コロナウイルスによる出前需要の増加により、FY2020.4Qにおいては62億円と+93%成長しています。
出所:出前館決算資料
主要KPIを見ると、2020年にはアクティブユーザー数は392万人、加盟店舗は3.3万店、年間オーダー数は3,707万件に達し、いずれの指標においても大きく伸長していることが分かります。
出所:出前館決算資料
高い配達品質
出前館では配達を担当するスタッフは、デリバリークルーとして雇用されている従業員、あるいは、出前館と契約を締結している法人の従業員です。これらの配達人に対して、配達や接客の研修を行っているため、高い配達品質を保つことができます。結果として、出前館はデリバリーサービスの3部門で1位を獲得しています。
一方で、高い配達品質を実現しようとすると、配達能力が不十分になってしまいます。出前館は配達品質と配達能力を両立させるため、タクシーアプリを運営するMobility Technologiesとの業務提携を行いました。新型コロナウイルスの影響により、需要が減少したタクシーをデリバリーに有効活用しようという取組です。
Uber Eatsとは異なり、きちんと雇用された配達パートナーを活用することにより、消費者も安心感を持ってサービスを利用することができます。
LINEのネットワーク活用
出前館は2020年3月にLINEグループとの資本業務提携を行っております。LINEでも、「LINEデリマ」や「LINEポケオ」といったデリバリー・テイクアウトサービスを展開していましたが、出前館と提携することにより、デリバリーサービスを「出前館」に統一します。さらにLINE IDを連携することにより、8,400万人のLINEユーザーを取り込むことを画策しています。
楽天デリバリー
楽天が運営するフードデリバリーサービスで、楽天会員の場合は新たに登録不要で利用できます。
開始時期 | 2002年 |
展開エリア | 日本全国(楽天デリバリープレミアムは東京都の一部の区のみ) |
ユーザー数 | 非公開 |
加盟店数 | 1.2万店舗以上 |
手数料 | 注文サービス利用料:商品代金の10% 注文・配達サービス料:商品代金の40% |
楽天経済圏の活用
楽天デリバリーの特徴としては、注文により楽天ポイントが貯まったり、貯まったポイントをデリバリーに使用できる点です。普段、楽天市場、楽天カードといった楽天のサービスを利用されている方であれば、楽天デリバリーをお得に利用することができます。楽天としても楽天デリバリーにより利益を出すというよりは、楽天デリバリーにより利用者を楽天経済圏への取り込み、定着を狙っていると考えられます。
その他、経済圏を活用したデリバリーサービスにdデリバリーがあります。こちらもドコモ経済圏の囲い込みを狙ったものと思われます。
※2021年2月1日更新
残念ながらdデリバリーのサービスが2021年6月30日(水)に終了するそうです。
https://delivery.dmkt-sp.jp/info/newsdetails/19603
fineDine
宅配すし「銀のさら」を運営するライドオンエクスプレスホールディングスが運営するフードデリバリーサービスです。各事業所に所属するファインダインの従業員が配達を行います。
開始時期 | 2006年(2010年にファインダイン株式会社を吸収合併) |
展開エリア | 東京都、神奈川県 |
ユーザー数 | 非公開 |
加盟店数 | 1,000店舗以上 |
手数料 | 非公開 |
デリバリービジネスのノウハウ
運営会社のライドオンエクスプレスホールディングスは、「銀のさら」、「釜寅」、「すし上等」といった宅配事業を営んでおります。このような宅配事業で培ったデリバリービジネスのノウハウをファインダインでも活用することにより、単に宅配代行だけではなく、飲食店の広告宣伝機能も担います。
フードデリバリーサービスの注目企業
Chompy
国内発のフードデリバリーサービスで、DeNA出身者が設立したSYNという企業が運営しています。同社は8月に6.5億円の資金調達を行っており、累積調達額は9億円に達しています(https://startup-db.com/companies/17288/syn)。
開始時期 | 2020年 |
展開エリア | 渋谷駅4.5km圏内 |
ユーザー数 | 2.5万人 |
加盟店数 | 500店舗以上 |
手数料 | 注文・配達サービス料:商品代金の30% |
特徴としては下図の通りです。
個店中心のターゲティング
特に注目すべき点はチェーン店ではなく個店を中心としてサービスを展開している点です。コロナ禍において外出する機会が減少してしまい、個店にとっては顧客との接点も減少してしまいました。チェーン店であれば、その知名度によりデリバリーの需要もありますが、個店ではそもそもそのお店を知らないということもあり得ます。Chompyはそのような状況下において、顧客との接点を生み出し、顧客に個店の魅力を伝える役割を果たしています。具体的には、店長の顔が見えたり、シズル感のある写真の掲載により、顧客に「食事に迷ったときもChompyを開けば美味しい料理に出会える」体験を提供しています。
この個店の魅力を引き出すUI/UXが他のフードデリバリーサービスとの大きな差別化のポイントとなっています。
Wolt
フィンランド発のフードデリバリーサービスで、2020年10月22日より東京でのサービスを開始しました。「おもてなしフードデリバリー」を掲げ、質の高い顧客体験の提供を追及します。
開始時期 | 2014年フィンランドで開始 日本では2020年に進出し、広島、北海道・札幌、宮城・仙台でサービスを展開 |
展開エリア | 23か国100年以上 |
ユーザー数 | 非公開 |
加盟店数 | 20,000店舗以上 |
手数料 | 非公開 |
手厚いカスタマーサポート
Woltでは、ユーザー、加盟店、配達パートナーに対して、1分以内に返答を行なうチャットサポートを提供しています。スピーディーな問題解決を図ることにより利用者に安心感を与えると同時に、集めたフィードバックによるサービスの改善を行ないます。
適性テストを通った質の高い配達パートナー
フードデリバリーサービスによる事故等が問題となる中、Woltの配達人は交通安全ルール遵守などを含む適性テストに合格したパートナーのみで構成されます。サービス利用者は勿論ですが、その街の住民に愛されるようなフードデリバリーサービスを目指しています。
今後のフードデリバリーサービスのポイント
配達品質と配達能力の両立
まずは、顧客の満足度を高める高い配達品質と、顧客が利用したいときに利用できる配達能力の向上を行っていく必要があります。残念ながら、Uber Eatsではギグワーカーを活用し、低コストで配達能力を向上させた一方で、配達のトラブルやクレームが発生しています。配達のプロではない個人を活用することは大きなリスクが伴います。そのリスクを軽減するため、配達パートナーのテスト、研修といった配達品質を高める取組に投資していく必要があると考えます。
- 「Uber Eatsつけ麺事件」があぶりだした問題点
- ウーバーイーツで発生するトラブル、クレーム、使い捨て…日本社会で増える自己責任の「働き方」問題
- 配達員追突でウーバーを提訴 250万請求、争う姿勢
経済圏への取込・定着、動線設計
出前館のLINE経済圏、楽天デリバリーの楽天経済圏、dデリバリーのドコモ経済圏等、フードデリバリーサービスを独立のサービスとして完結させるのではなく、自社の他のサービスへの動線設計を上手く行い、自社の経済圏に取り込み、定着させることが重要であると考えます。自社経済圏の共通ポイントを軸として他のサービスへのカスタマージャーニーを描くことにより、顧客のライフタイムバリュー(顧客生涯価値)を向上させることができます。
店舗ブランディング・宣伝との一体化
フードデリバリーサービス事業者に求められるのは、単に料理を配達することだけではなく、個店のブランディング・宣伝を行っていくことが求められます。コロナ禍において減少してしまった顧客接点を、フードデリバリーサービスにより新たに生み出し、個店のブランディング・宣伝を行うことにより、「より美味しいものに出会える」という顧客価値を提供することができます。
まとめ
以上、フードデリバリーサービスの市場、ビジネスモデル、主要企業、事業のポイントについて見てきました。今後もwithコロナのニューノーマルの時代では、フードデリバリーの需要は大きくなっていくことが予想されます。フードデリバリーサービスの競争は、単に価格の安さだけではなく、顧客にとって魅力的な価値を提供できるかが重要になってきます。今後も多くのフードデリバリーサービスの参入が予想されますが、顧客体験価値における他社との差別化を明確にし、事業を展開することが期待されます。
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