「論点を研ぐ 戦略コンサルタントが明かす「問題解決」の実際」という書籍を読みましたので、感想を書きたいと思います。
項目 | 評価 |
---|---|
役に立つ度 | |
読みやすさ | |
情報の質 |
本書の概要
本書では、問題解決における最初のフェーズである「論点設定」において、論点を見直し続ける(=研ぐ)方法を言語化したものです。著者は、プロジェクトでの行き詰まりを解消するには「囚われ」からの解放が最も重要なポイントと指摘し、この「囚われ」からの解放を実現するための具体的な方法論を示しています。
論点を研ぐ技法は大きく以下の5つのステップに分けられます。
- 同質化する:問題解決に直面するクライアントや自組織の上長が解決したいと考える論点と現時点の仮説を理解する
- 前提を自覚する:ステップ1で理解した論点や仮説を支えるファクト(事実)や、ロジック(論理)などの前提を整理する
- 前提を問い直す:ステップ2で整理した前提の中から、その真偽に疑いのあるものを抽出する
- 核心を突く:ステップ3で見つけた「疑い」を見極め、前提の誤りを正し、新しい前提と新たな問いを明らかにする
- 再構築する:ステップ4で据えた新しい前提から得た新たな問いを軸に、論点と仮説を再構築する
愚直に5つのステップを繰り返すことにより、「核心に迫る論点」と「スジの良い仮説」の構築が可能になり、問題解決力が向上するとのことです。
本書では、ベイカレントコンサルティングが実際に取り組んだプロジェクト事例を用いながら解説しており、説明されている方法論の有効性・適用方法を理解することができます。
著者も書籍内で述べていますが、本書を正しく理解するためには前提として、「ロジカルシンキング」や「イシューアナリシス」の知識が必要となります。その前提知識があっても理解するまでに読み直しが必要な部分が結構多いです。また、上記5つのステップに加えてサブステップも登場するため、読み進めているうちに今どのステップにいるのか、迷子になってしまうかもしれません。各ステップを丁寧に読み進め、目次などで今どのステップの説明をしているのかを適宜把握することをおすすめします。
著者のプロフィール
則武 譲二 (のりたけ じょうじ)
ベイカレント・コンサルティング 常務執行役員 CDO。ボストン コンサルティング グループ、大手IT企業を経て現職。主に、全社・事業戦略の策定、DX、新規事業の立ち上げ、マーケティング・営業改革などのテーマに従事。DXに関するコンサルティング、研究活動、人材開発などの全体を統括。主な著書は『データレバレッジ経営』(共著・日経BP社)、『THINK! 別冊 DXの真髄に迫る』(共著・東洋経済新報社)など。
https://jbpress.ismedia.jp/list/jir/follow/author/%E5%89%87%E6%AD%A6%20%E8%AD%B2%E4%BA%8C
本書のポイント
7つの観点で前提を洗い出す
プロジェクトが進行するにつれて、元々考えていた論点や仮説がどのような前提のもと構築されたかということを見落としがちです。本書では、その前提を見逃さないための有用な7つの観点を示しています。具体的には以下の通りです。
- 定義
- プレーヤー
- セグメント
- バリューチェーン
- マネタイズ
- シチュエーション
- 時間軸
このようなフレームワークを活用することによって、ある程度漏れなく前提を洗い出すことができます。特に1つ目の定義などは当たり前のようで、人によって異なる定義で用いられている用語なども多いので、重要な確認の観点かと思います。
「3つの質問」で”囚われ”を解く
人間の思考にはどうやっても「バイアス」が生じてしまいます。特にプロジェクトに長く参画しているとその傾向が強くなると感じます。本書では、このような「バイアス」「固定観念」「偏り」を”囚われ”と呼び、この”囚われ”から解放されるための3つの質問を示しています。
- 漏れ:考える必要があるのに考えられていない観点はないか?
- 妥当性:ほかの選択肢・見解ではなく、本当にそれが正しいか
- あえて:あえて違う考え方をするとどうなるか
特に3つ目の「あえて」が重要であると考えます。というのも、プロジェクトが行き詰っている状況を打破するためには、今まで当たり前としていた考え方を否定しなければいけないこともあります。それは作業の手戻りや大幅な計画の見直しを伴うリスクもあるため、目を背けがちになってしまいます。だからこそ、勇気を持って「あえて」を問うことが非常に重要なポイントであると考えます。
問題の核心に迫る
これまでの前提が正しくないと分かると新しい前提を立てる必要があります。その際は古い前提と新たなファクトやロジックに基づき、”本当のメカニズム”を考えていく必要があります。そうして得られた新しい前提を基に、核心に迫る新たな問いが生まれてきます。
個人的にはこのステップが最も難しいと感じます。覆った前提から上手く新しい前提を引き出すための問いが導けるかは少し疑問です。本書でも、この点に関する解説は少し省略気味に書かれていたように思います。具体的な実例に基づく新しい前提の立て方は解説されていますが、実際に自分の直面する課題に使用できるかはあまり自身がないです。
本書を読んだ上での実践
機動的に論点の見直しを行う
プロジェクトを進めていると当初の論点・仮説に固執してしまい、結果としてプロジェクトが遅延したり、最適な問題解決ができなかったりします。自分の考えた論点や仮説が否定されてしまうのはつらいですが、プロジェクトの行き詰まりを感じたら、客観的な視点で論点や仮説を疑うことを取り組んでみたいと思います。
また、自分が途中で参画することになったプロジェクトにおいても同様で、周りから嫌な顔をされるかもしれませんが、プロジェクトの前提に疑いを持った場合は勇気を持って新しい前提を立てることの提案を実践したいと思います。
フレームワークを活用する
古い前提を疑うにしても思い付きで考えても良いアイデアは出ないと思いますし、説得力のある提案はできないと思います。そのため、本書で紹介されている7つの観点や3つの質問を活用したいと思います。このようなフレームワークを活用することにより、漏れなく正しい観点で論点を見直すことができ、他の人に説明する際もフレームワークを示すことによって説得力を持たせることができます。
論理的思考力を磨く
古い前提を覆し、新しい前提を立てた上で、新たな論点・仮説を立てるために重要な思考方法は論理的思考力です。物事のメカニズムを解明することが新しい前提を立てる上で非常に重要になるため、整理されたファクトからどのような論理(ロジック)を組み立てるかを考えるための論理的思考力は必要不可欠です。
センスや発想力で素晴らしい論点や仮説を立てられるかもしれませんが、私は天才ではないので、地道に帰納法・演繹法を活用し、イシューツリーを組みなおすことを実践したいと思います。
まとめ
本書は、論点思考・仮説思考を実践しているものの、プロジェクトの行き詰まりを感じている人におすすめの書籍です。
論点思考・仮説思考を学ぶことで問題解決力は身につきますが、実際のプロジェクトの現場ではそう上手くはいきません。何度も論点を見直し進めていく必要があります。そのような論点の見直しを形式知として落とし込んだ本書は、プロジェクトの現場で働くコンサルタントやプロジェクトマネージャーに非常に有益な方法論を示してくれます。
コメント