サマリ
- バイク(二輪自動車)の市場は、売上金額、販売台数いずれも減少傾向
- バイク業界における主な課題は、需要の低下、駐車場の不足、厳しい環境規制
- そのような課題がある一方で、コネックテッドバイク、サブスクリプション、シェアバイクといった新しい取り組みが広がり、バイクの利便性の向上が期待できる
- 今後は、所有して楽しむバイクよりも、移動手段や業務用として”利用する”バイクが普及
バイク業界の現状
国内バイク業界の市場規模を国内主要バイクメーカー4社の売上と定義すると、約3.8兆円となります。2018年より2年連続で減少していることが分かります。2020年には新型コロナウイルスによる影響もあり、前年と比較し約12%減少しています。
出所:各社IR資料
各社の売上を見ていると、いずれの企業も2018年から2年連続で売上を落としています。特にホンダ、カワサキは2019年から比較的大きく売上を落としていることが分かります。
世界販売台数について見てみると、どのメーカーについても販売台数が2018年以降減少傾向ですが、ホンダは特に顕著です。
一方で、国内の販売台数を見るとホンダ以外のメーカーは減少傾向ですが、ホンダは増加傾向にあります。このことから、ホンダの二輪事業の売上減少は、国外での販売台数の減少によるところが大きいと思われます。新型コロナウイルスによる海外での製造停止による影響が大きいと推察されます。
次に統計情報を基に、種類別の販売台数を見てみると、気筒容積250mlを超える中型・大型バイクの販売台数が減少しているようです。一方で、新型コロナウイルスで公共交通機関の利用を避ける動きが広がり、小型バイクの販売台数はそれほど大きく減少していません。
【参考】新型コロナの影響でバイク販売増に 生活スタイルの見直しが進みそうだ
出所:経済産業省生産動態統計
バイク業界の課題
バイク需要の減少
国内のバイク需要は2002年度以降、減少傾向にあります。2002年には816万台の需要台数は2018年には370万台となっています。特に20~30代の若年層のバイク需要が、50~60代のシニア層よりも小さくなっています。少子高齢化の影響のみならず、公共交通機関の発達によりバイクを必要としない人やバイクに魅力を感じない人が多くなっていることも要因でしょう。また、バイクは所有しているだけで、駐車場代、税金、保険料等がかかるため、若者にとって経済的な負担が大きいという点もあります。
出所:2019年度二輪車市場動向調査
バイクを停める場所が見つけられない
2006年の道路交通法の改正により、バイクの駐車取り締まりが強化され、バイクを路上にちょっと停めておくということができなくなりました。その一方でバイクの駐車場を見つけるのは非常に難しいです。自動車用の駐車場は街中にも多く存在しますが、バイク用の駐車場はほとんどないのではと思うほど見つけるのが難しいです。
全国のバイク駐車場は24,616箇所(2021年7月現在)あるそうですが、バイクの保有台数は1,000万台以上なので、十分な数の駐車場があるとはいえないでしょう。
https://www.jama.or.jp/industry/two_wheeled/two_wheeled_3g1.html
厳しい環境規制
国内においても、世界で最も厳しい欧州の「EURO5」と同等の「令和2年排ガス規制」が発表されました。これにより排出ガスを浄化する装置の劣化を監視する機能である『車載式故障診断装置(OBDⅡ)』の搭載が義務化されることになります。
この新しい規制により、現行モデルの生産終了が危惧されます。バイクは排気ガスを出す以上環境に良い乗り物とはいえず、現行のスーパースポーツ等の大型排気量のバイクは徐々に絶滅していくことが予想されます。
新規制で何が変わった?令和2年12月より排ガス規制強化、原付だけは令和7年から!
近年のバイク業界の動向
コネクテッドバイクの登場
自動車業界においてはコネクテッドカーが話題ですが、バイクにおいてもコネクテッドバイクが登場し始めています。
ホンダは法人向けの電動コネクテッドスクーター「ベンリィ(BENLY)e:」を2020年4月に発売しています。新聞配達や宅配などの集配業務向けに開発されたもので、原付一種(第一種原動機付自転車)の「BENLY e: Ⅰ(ベンリィ イー ワン)」と原付二種(第二種原動機付自転車)の「BENLY e: Ⅱ(ベンリィ イー ツー)」のほか、それぞれのモデルをベースに、大型フロントバスケット、大型リアキャリア、ナックルバイザー、フットブレーキを標準装備した「BENLY e: Ⅰ プロ」と「BENLY e: Ⅱ プロ」がラインナップとしてあります。
主な特徴としては、リチウムイオンバッテリーを採用した小型のEVシステムとコネックテッドサービスとの連携です。バイクにコンピュータを搭載することにより、走行により取得したデータを活用し、業務の効率化や安全性の向上を実現することができます。
コネクテッドサービスの展開
上記のコネクテッドバイクを活用し、業務効率化、安全性の向上を実現するためのサービスも登場しています。
ホンダは「Honda FLEET MANAGEMENT」サービスを展開しています。これは法人企業向けサービスで、業務における二輪車の稼働状況をモニタリングし、業務の効率化、業務スタッフの負荷軽減、労働環境・安全面の向上を実現するものです。
主な機能として以下のものがあります。
・リアルタイムに車両の位置情報や稼働状況を把握
車両の位置情報が確認できることで、迅速なサービスの提供に向けた配車を可能とし、業務効率のさらなる向上に寄与します。
・運転特性レポート機能
急加速、急制動の回数をモニタリングし可視化が可能。発生場所の特定を可能としたことで、安全運転指導や安全運転の意識向上に役立てられます。
・自動日報作成機能
走行日時、訪問場所、走行距離などが自動で記録され、一日の走行ルートも地図上で確認できるほか、車両管理に欠かせない保険、点検など、情報の一元管理が可能です。
・ジオフェンス機能
地図上に仮想のエリアを設け、エリアに車両が接近、通過、到着した際に通知を受け取ることができます。
ライディングサポート機能の充実
バイクの不安定さや転倒リスクを解消するため、運転を支援するシステムを搭載したバイクが登場しています。
ホンダライディングアシスト
まずは、ホンダの「ホンダライディングアシスト」です。「ASIMO」といったヒューマノイドロボット研究での技術を活用し、バイク自体がバランスを取り自立することができます。内蔵のコンピュータが、ホイールの向き、ハンドルの切れ角、キャスター角を自動で調整するという仕組みになっています。
この技術により、転倒の不安なくバイクに乗ることができます。一度バイクが倒れてしまうと200kgの車体を起こすのは一苦労なので、転倒しないというのはライダーにとって非常に嬉しいことと思われる一方で、バイクを操る楽しさが減ってしまうのかもしれません。
ヤマハ MOTOROiD(モトロイド)
ヤマハは「MOTOROiD」という「人とマシンが共響するパーソナルモビリティ」を目指したAIと自立機構を備えたバイクを開発しています。ライダーの顔やジェスチャーを認識する画像認証AI・自立するためのバランス制御技術AMCES(アムセス)・後方からライダーを包み込むようにサポートし、ライダーとマシンの非言語コミュニケーションを目指すハプティックHMI等の機能があります。「生き物のようなマシン」がイメージとなっており、「バイク」という概念を超えた新しい乗り物として今後活躍するかもしれません。
バイクサブスクリプション
自動車のサブスクと同様に、月額料金を支払うことで、バイクの貸出、利用を行うことができるサブスクリプションサービスがいくつかあります。バイクレンタルとは異なり、月単位での所有体験を味わうことができるというのが大きなメリットです。
月額料金は15,000円~60,000円程度で、バイクをちょっと試してみたいという人にとっては便利なサービスだと思います。1台のバイクでは飽きてしまうという人にとっても色々なバイクを手軽に所有することができるという点でメリットになるかもしれません。一方で、レンタルとは異なり一定期間所有することになるので、駐車場の確保が必要となります。
現状、数としては多くありませんが、ME:RIDEや月極ライダーといったサービスがあります。
バイクシェアリング
自動車や自転車のシェアリングと同様にバイクのシェアリングサービスも登場し始めています。
HELLO SCOOTERというサービスですが、借りたい場所(ステーション)でスクーターを借りて、別のステーションで乗り捨てられるサービスです。ヘルメットも備え付けられているため、利用者側で用意する必要はありません。利用料金は160円/15分で非常にリーズナブルです。スクーターであれば15分でかなりの距離移動することができるので、電車よりも便利に移動できます。但し、現状ステーション数は多くなく、移動に利用できる範囲は限られているといえるでしょう。
バイク駐車場経営の広がり
土地活用の1つの手段として、所有する土地をバイクの駐車場として経営することが広まっています。上述の通り、バイクの駐車場は不足気味といえるでしょう。自動車の駐車場と異なり、狭小な土地でも始めることができるといった手軽さから、今後バイク駐車場経営は更に広がりを見せると思います。所有するバイクの駐車場としてもそうですが、シェアバイクのステーションとしての活用も期待されるところです。
まとめ
以上、バイク業界の現状、課題、動向を見てきましたが、厳しい環境規制、若年層の関心の低下などにより、バイク需要は今後も大きく回復する見込みはないと思われます。その一方で、新型コロナウイルスで三密を避けるバイクが見直されているというのも事実です。今後は、バイクを所有して楽しむというよりも、移動手段や業務用として”利用する”バイクが普及していくと考えられます。
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