【読書感想】モビリティ・エコノミクス ブロックチェーンが拓く新たな経済圏 -自動車を中心につながる社会

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本書の概要

本書は、「モビリティ×ブロックチェーン」をテーマに、様々な領域におけるユースケース、モビリティにおけるブロックチェーンがもたらす価値を詳細に解説しています。モビリティにブロックチェーンが加わることにより、車の自律型決済、サプライチェーン管理の進化、モビリティデータ共有の効率化を実現することができます。ブロックチェーンがMaaS、CASEの進化を加速させ、車がお金を稼ぐ仕組みをつくることにより、経済圏を確立するということを示しています。

著者のプロフィール

深尾 三四郎

伊藤忠総研産業調査センター上席主任研究員兼モビリティ・オープン・ブロックチェーン・イニシアティブ(MOBI)理事。1981年東京・目黒生まれ。98年に経団連奨学生として麻布高校から英ユナイテッド・ワールド・カレッジ(UWC)のアトランティック校(Atlantic College)へ留学。2000年に同校卒業後、独フォルクスワーゲンのヴォルフスブルグ本社でインターンシップを行い、自動車産業に関心を持つ。03年英ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)を卒業、二酸化炭素排出権取引と持続可能な開発(Sustainable Development)を学び、地理・環境学部で環境政策・経済学士号を取得。同年野村證券入社、金融研究所に配属。05年から英HSBC(香港上海銀行)での自動車部品セクターの証券アナリストに従事し、08年米StarMine(Thomson Reuters)Analyst Awards日本自動車部門2位受賞(銘柄選別)。09年から米国及び香港のヘッジファンドで日本・韓国・台湾株のシニアアナリスト。機関投資家としてスマートフォンの黎明期と液晶モニター、太陽電池の進化を目の当たりにした。浜銀総合研究所を経て、19年8月より現職。MOBIでは19年8月に顧問(Advisor)、20年1月に理事(Borad Member)に就任。日本コミュニティの活動を統括し、アジア全域の会員拡大にも貢献。国内外で自動車産業とイノベーションに関する講演、企業マネジメント向けセミナーを多数実施

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バリンジャー・クリス

モビリティ・オープン・ブロックチェーン・イニシアティブ(MOBI)共同創設者兼最高経営責任者(CEO)。1957年米ペンシルベニア州フィラデルフィア生まれ。80年米アマースト大学(Amherst College)卒業。レーガン大統領経済諮問委員会で国際貿易のエコノミストを務めた後、85年米カリフォルニア大学バークレー校(UC Berkeley)で経済学の修士号を取得。金融工学の専門家として米バンク・オブ・アメリカでシニア・ヴァイス・プレジデントを務める。08年から17年までトヨタ自動車の金融子会社であるトヨタモータークレジット(TMCC)で最高財務責任者(CFO)。14年から17年まではトヨタファイナンシャルサービス(TFS)でグローバルイノベーション部門のトップ(Global Head of Innovation)を兼任。17年からトヨタリサーチインスティテュート(TRI)でCFO及びモビリティサービス部門長(Head of Mobolity Services)として、次世代モビリティサービスの構築に従事した。TRIを退職し、18年5月にMOBIを創設。国際カンファレンスで自動車及びブロックチェーンに関する基調講演を多数実施

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MOBI(Mobility Open Blockchain Initiative)

本書の中で何度も登場するMOBI(Mobility Open Blockchain Initiative)についても簡単に説明します。

MOBIとは2018年5月2日に設立した非営利団体で、多くのグローバル自動車メーカー、ブロックチェーンスタートアップ、テック企業、公的機関、非政府組織(NGO)により構成されます。そのミッションとしては、ブロックチェーン関連技術を活用して、人とモノの輸送をより環境に優しく、より効率的で、より手ごろな価格にすることを目指すことです。ミッション達成に向けて分散台帳技術及び関連技術の標準化と普及を推進しています。

主なメンバー

自動車ホンダ、GM、フォード・モーター、BMW、CEVT(吉利汽車欧州R&Dセンター)、ボッシュ、デンソー、マレリ
IT・インフラIBM、日立製作所、PG&E、アクセンチュア
EC、物流、商社アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)、豊田自動織機、伊藤忠商事
保険米軍自動車保険協会(USAA)、あいおいニッセイ同和損害保険、スイス再保険
政府・国際機関米ノブリス、欧州委員会、中国交通運輸部科学研究院、シンガポール企業庁、世界経済フォーラム
学術・業界団体米電気電子学会(IEEE)、国際半導体製造装置材料協会(SEMI)、米自動車技術者協会(SAE International)
ブロックチェーンハイパーレッジャー、コンセンシス、リップル、R3、IOTA財団、イーサリアム企業連合(EEA)、テゾス財団、スイス・クリプトバレー、スウェーデンブロックチェーン協会

本書を読んだきっかけ

ブロックチェーンに関する最新の動向を知りたくて書籍を探していたところ、本書を見つけました。正直、あまりブロックチェーンとモビリティに関連性がないと思っていたので、タイトルを見て関心を持ちました。MaaS、CASEの大きな課題としてはマネタイズが難しいことだと思っていたところ、本書の概要にブロックチェーンが「MaaSやCASEを本当に「儲かる」ものにするためのラストピース」と書かれており、一気に興味をひかれました。ブロックチェーンが次世代モビリティにおける重要な要素であるというのであれば、成功している事例などを学びたく本書を手に取りました。

本書のポイント

世界の自動車生産数はピークを越えた

まず、本書の大前提として世界の自動車生産台数は今後増えていくことはないという事情があります。自動車産業は規模の不経済性に直面しており、メーカーが増産を行っても儲けることができない、むしろ損をするようになるという構造的な課題を抱えています。その原因としては、自動車産業における取引コストが増大しているという事情が存在します。取引コストには、品質関連費用(監視コスト)、研究開発費用(交渉コスト)、販売奨励金・インセンティブ(交渉コスト・探索コスト)などがあります。不確実性の高い現代において、市場のニーズに応えるために各自動車メーカーにおける取引コストが増大しているのです。

このような状況下において、自動車メーカーが生き残るためにはブロックチェーンが必要と本書では銘打っています。ブロックチェーンを活用し、次の2点を実現することで新たな付加価値を生み出すことができるのです。

  1. 取引コストの回避または大幅な削減
  2. 車両走行時に集積したデータをマネタイズ

取引コストの回避または大幅な削減

まず、取引コストの回避または大幅な削減という点でのブロックチェーンの活用です。ブロックチェーンには三式簿記という概念があります。これは、ある取引について、複式簿記と同じく当事者二者の帳簿に記帳することに加え、分散した共有台帳にも取引情報を書き込むことで、当事者の会計情報の正確性を担保します。メーカー、サプライヤー等の自動車関連メーカーの取引データが正確に記録され、いつでも参照可能になれば、互いに信用することができ、取引コストの削減につながります。

また、スマートコントラクトの仕組みを活用することにより、取引の条件を自動で実行することで、仲介コスト、法的コストといった取引コストを削減することもできます。

ブロックチェーンを基盤として、様々な自動車関連プレイヤーを結びつける(マッチングする)プラットフォームを構築することにより、取引コストの大幅な削減を削減することができるのです。特に、中小企業のサプライヤーなどは営業にコストをかけることができなかったり、自社の信用を証明することが難しかったりします。そのようなプレイヤーが大手の自動車メーカーと安心して取引するためにも、ブロックチェーンプラットフォームが活躍します。

車両走行時に集積したデータをマネタイズ

次に、車両走行時に集積したデータをマネタイズという点でのブロックチェーンの活用です。自動車1台1台にID(Vehicle ID)が付与され、ウォレットで暗号資産とともにブロックチェーン上に保存・管理します。そして、車両のデジタルレプリカとしてのデジタルツイン(物理空間から取得した情報をもとに、デジタル空間に物理空間の双子(コピー)を再現)を構築します。これにより、サイバー空間上で、車両やインフラなどのデジタルツイン同士が暗号資産を価値移転の媒体とした取引を行います。

例えば、走行している自動車がセンサーにより道路や周辺環境のデータを収集し、当該エリアを管轄する自治体のクラウドにそのデータを提供する。これにより、その車両は自治体からデータ提供の対価として報酬(トークン)を受け取ることができる。このような仕組みにより、自動車が自律的にお金を稼ぐということを実現することができます。もらった報酬は高速道路の利用料金等に活用できるというような仕組みです。

その他、コンチネンタルの事例としてブロックチェーンを活用した駐車スペースの情報共有プラットフォームがあります。これは、走行中の車両が駐車場の空き情報をコンチネンタルに提供することによって、報酬(トークン)を受け取ることができような仕組みです。コンチネンタルはこのようなデータを第三者(自治体等)と共有することにより、駐車に関する問題の解決を図ります。

https://www.continental.com/en/press/fairs-events/techshow-2019/data-monetization-platform/

本書を読んだ上での実践

モビリティ×ブロックチェーンの他分野との関連性を学ぶ

本書で紹介されているブロックチェーンのユースケースは、今まさに活発に議論されているスマートシティ、サーキュラーエコノミーといった分野との親和性が非常に高いです。モビリティ(移動する手段)というのはいつの時代においても必要不可欠です。モビリティは、多くの社会問題と関連し、その解決する手段となると思います。

そして本書を読み、モビリティにブロックチェーンが加わることにより、自律的な経済圏を確立することも難しくないと感じました。スマートシティ、SDGsといった分野はマネタイズが難しく、スケールしづらいという課題を抱えています。そこに「モビリティ×ブロックチェーン」が加わることにより、個人・企業が社会問題を取り組むことにより「稼ぐ」ことができる仕組みができるのではないかと考えております。なので、今後どのようなユースケースの可能性があるか考えるため、モビリティ×ブロックチェーンの他分野との関連性を学びたいと思います。

自動車分野における最新動向を学ぶ

モビリティにブロックチェーンを活用するためには、モビリティの最新動向を知らなければいけません。CASE、MaaSといったキーワードは毎日目にする機会はありますが、ブロックチェーンとの関連で語られることは少ないように感じます。モビリティとブロックチェーンの両者がきちんと整合することにより、モビリティを活用した自律的な経済圏を確立することができると思います。

新しいモビリティに対してどのようなブロックチェーン技術を活用することができるのか、自動車の最新動向をきちんとキャッチアップし、考えていくことが重要になると思っています。モビリティと一口に言っても、移動する車両(自動車、バイク、電車等)もあり、移動するためのインフラ(道路、線路等)もあり、そのような領域における最新動向をきちんと学んでいきたいと思います。

まとめ

自動車というのは日本の基幹産業であり、日本の自動車メーカーが世界的なプレゼンスをさらに高めるうえでもブロックチェーンの活用は非常に良い手段だと考えます。古くより自動車を世界的に販売している日本には大きな顧客基盤ネットワークがあるため、他国と比べても競争優位にあると考えます。モビリティ×ブロックチェーンは日本経済を再興するための重要なキーワードになると考えます。

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