新型コロナウイルスの影響を受け、マッチングアプリを活用したパートナー探しが定着してきています。
福利厚生サービスとしてマッチングアプリを導入する企業も登場し、パートナー探しの手段としてかなり普及してきていると言えるでしょう。
本記事では、マッチングアプリ業界の市場規模、ビジネスモデル、主要企業、競争要因について概観します。
市場規模
株式会社タップルの調査によると2023年の国内のオンライン恋活・婚活マッチングサービス市場規模は、788億円に達する見込みです。その後も成長を続け、2028年には860億円まで拡大する見込みです。
コロナ禍において、リアルでの出会いの場の減少を受けて、2020年以降市場を大きく拡大しています。
実際にアプリをきっかけに交際に至る人が増えています。
2021年の調査では、異性の交際相手と知り合ったきかっけで、「ネットで(SNS、ウェブサイト、アプリ等によるやりとりがきっかけで知り合った場合)」が、男性で11.9%、女性で17.9%となっており、かなり一般化してきているといえます。女性に関しては、知り合ったきっかけの2番目が「ネットで」です。
また、アプリを通じて結婚に至る人も増えています。
2021年の調査では、夫と妻が知り合ったきっかけ(過去6年の結婚)で「ネットで」が13.6%と「学校で」に次いで多くの割合を占めています。
このように、アプリを通じて交際・結婚に至る人が増加しており、それに伴い、マッチングアプリ業界の市場規模も成長してきていることが分かります。
ビジネスモデル
マッチングアプリのビジネスモデルを図示すると下図のようになります。
フリーミアム
会員登録については無料で行うことができ、異性とのマッチングまで無料で利用できるアプリが多いです。マッチング後のメッセージのやり取り以降については有料会員になる必要がある場合が多いです。
異性とのメッセージのやり取りやデートに至るには、実質的には有料会員になることが必須ですが、一部機能を無料で提供することにより、利用のハードルを下げていることが特徴です。
定額制の利用料金
有料会員になると会費は月額の定額制が多いです。1か月、3か月、6か月、12か月払い等のプランが用意されており、期間が長いほど割安になります。
ユーザーの利用頻度や利用量にかかわらず、安定した会費収入を得ることができるのが特徴です。有料会員は自動更新になっていることが多く、休眠会員からも会費収入を得ることができます。
1か月プランは4,000円前後が多いようです。また、最も安い12か月プランだと1か月当たりの料金は2,000円前後になります。
pairs | with | タップル | match | Omiai ※アプリのみ | |
---|---|---|---|---|---|
有料会員 | 男性のみ | 男性のみ | 男性のみ | 男性・女性 | 男性のみ |
1か月プラン | 3,700円 | 3,600円 | 3,700円 | 4,490円 | 3,900円/月 |
3か月プラン | 3,300円/月 9,900円/一括 | 3,000円/月 9,000円/一括 | 3,200円/月 9,600円/一括 | 3,990円/月 11,970円/一括 | 3,267円/月 9,800円/一括 |
6か月プラン | 2,300円/月 13,800円/一括 | 2,217円/月 13,300円/一括 | 2,800円/月 16,800円/一括 | 2,790円/月 16,740円/一括 | 2,467円/月 14,800円/一括 |
12か月プラン | 1,650円/月 19,800円/一括 | 1,833円/月 22,000円/一括 | 2,234円/月 26,800円/一括 | 1,690円/月 20,280円/一括 | 1,900円/月 22,800円/一括 |
オプションサービス
定額制の有料会員になることで、異性とメッセージをする、デートに誘うといった目的を達成するための基本的な機能を利用することができます。
マッチングアプリでは、さらに利便性を高めるオプションサービスを有料で提供しています。
- 異性に対して「いいね」できる数を増やす
- 異性のより詳細な検索ができる
- 検索結果の上位に表示される
- メッセージの既読がわかる
通常の有料会員では、マッチングしない、好みの異性が見つからない、といった課題がありますが、そのような課題に対してピンポイントで追加のサービスを提供することで価値を提供しています。
その他収益
その他、マッチングアプリ事業者の収益として以下のようなものがあります。
- 広告料収入:無料ユーザーに広告を表示
- イベント参加料:リアルでのイベントなど開催
- カウンセリング料:恋愛や婚活に関する悩みに対するアドバイスを提供
- 写真撮影料:マッチングしやすい写真を撮影するサービス
課題・リスク
マッチングアプリには、利用するにあたっての課題やリスクがあります。
ここでは、独立行政法人国民生活センターにおいてあげられている事例に基づき、整理しています。
プロフィールの詐称
マッチングした相手のプロフィールと実際の情報が異なっている場合があります。
- 年齢がプロフィールと異なっていた
- プロフィールには独身と書いているのに実際は既婚だった
ほとんどのアプリでは免許証などによる本人確認が必要ですが、他人の免許証を使用するなど年齢をごまかすケースがあります。
半年前に⼊会し1⼈の異性とデートをした。⾝分証明として認証バッジがついている⽅だったので安⼼して交際を始めた。しかし実際は年齢を10歳若く詐称していた事がわかったため、交際をやめた。この苦情を業者に伝えると、「相⼿に警告します」だけだった。私はすでに退会したが、相⼿が粘着質であったため、逆恨みが怖い。
第43回インターネット消費者取引連絡会(テーマ:マッチングアプリ)国民生活センター報告資料
解約ができない・できなかった
多くのマッチングアプリでは、有料会員は自動契約更新になっており、うっかり解約を忘れ、会費を請求されるケースがあります。本人の失念によるものであれば仕方がありませんが、アプリによっては解約の仕方が分かりづらかったり、アプリで退会処理を行ってもスマホのプラットフォーム決済では解約できていなかったりするケースもあります。
半年前、マッチングアプリに会員登録した。無料サービスは機能が少ないので、半年間の有料サービスを契約し、約9000円をクレジットカードで⽀払った。有料サービスの利⽤をしていなかったので、解約するつもりでいたが⼿続きはしていなかった。今朝、新たに半年間の有料サービス代の決済完了メールが届いた。決済されたことに納得できない。
第43回インターネット消費者取引連絡会(テーマ:マッチングアプリ)国民生活センター報告資料
知り合った相手に別の出会い系サイトへの登録を促された
マッチング後に「スマートフォンが壊れた」などを理由に別の有料出会い系サイトへの登録を促されるケースがあります。そこで、有料会員になることを求められ、高額の請求を受けることがあります。マッチングした相手とはその後、連絡が取れなくなることが多いです。
マッチングアプリで知り合った男性とやり取りしていたところ、男性から「スマートフォンがウイルスに感染したため新しい機種にする」と⾔われ、出会い系サイトに誘導された。出会い系サイトへの登録は無料だったが、会員になるために3000円をクレジットカードで⽀払った。その後、個⼈情報の交換などのためにさらに7万円を⽀払い、本⼈確認のため運転免許証の画像データなどを送信したが、個⼈情報の交換はできなかった。これまでの費⽤は返⾦されると男性から聞いていたが、男性はすでにマッチングアプリを退会していた。だまされたと思うので、出会い系サイトを解約して返⾦を求めたいがどうしたらよいか。また、個⼈情報の悪⽤も⼼配だ。
第43回インターネット消費者取引連絡会(テーマ:マッチングアプリ)国民生活センター報告資料
知り合った相手に勧誘や営業を受けた
マッチングアプリで知り合った相手に、投資商品の営業やマルチ商法の勧誘を受けるケースがあります。適法な商品の場合もありますが、投資詐欺などの被害に遭う場合もあり、その後連絡が取れなくなることが多いです。
マッチングアプリで知り合った男性に紹介された海外の暗号資産投資サイトで取引をし、出⾦をしようとしたら、「総資産の15%の引き出し保証⾦(180万円)を⽀払う必要がある」と投資サイトから連絡があった。保証⾦を130万円⼊⾦したが、詐欺だとわかり取引していない。警察にも相談中だが、どうすれば良いか。
第43回インターネット消費者取引連絡会(テーマ:マッチングアプリ)国民生活センター報告資料
主要企業の特徴
MMD研究所の調査によると、国内のマッチングアプリを利用したことがある人の内、利用経験があると回答した割合が最も多いのがpairsで50.8%です。次いでwithで22.5%で、pairsが人気を集めていることが分かります。
以下では、利用経験の多いマッチングアプリ上位5位の企業について見ていきたいと思います。
株式会社エウレカ(pairs)
企業の特徴
pairsを運営する企業で、NASDAQ上場のMatch Groupの一員です。
Match Groupは世界で様々なブランドのマッチングアプリを提供する会社で、pairsの他、Tinder、Match、Meetic、OkCupid、Hingeなどがあります。
株式会社エウレカの売上は公開されていないので、以下純利益です。
サービス(アプリ)の特徴
pairsの主な特徴は以下の通りです。
- 累計登録者数が2,000万人以上(2022年4月時点)
- 累計70万人以上が交際・結婚に至る(2022年12月時点)
- 国内で最も利用率が高いマッチングアプリ(マッチングアプリ利用経験者の50.8%が利用したことがある)
※MMD総合研究所調査 - 豊富な探し方が可能
- 年齢、居住地など基本項目以外にも、結婚への意思、お酒、タバコなど細かい項目で検索可能
- 幅広いカテゴリーのコミュニティがあるから趣味・価値観などの内面もわかりやすく話題のきっかけになる
- 居住地・年齢・いいね!などの情報をもとに、お互いの魅力を感じる相手をレコメンド
株式会社with(with)
企業の特徴
withを運営する企業で、株式会社Omiaiと併せてエニトグループが統括する企業です。
株式会社エウレカの売上は公開されていないので、以下純利益です。
サービス(アプリ)の特徴
withの主な特徴は以下の通りです。
- 累計登録者数は700万人以上
- 主なユーザー層は20代
- 毎日12万がマッチング
- 価値観がわかる心理テストなどにより高いマッチング精度を実現
株式会社タップル(タップル)
企業の特徴
タップルを提供する企業でサイバーエージェントの100%子会社です。
売上は公開されていないので、以下純利益です。2022年9月期で約5億円の純利益です。
サービス(アプリ)の特徴
タップルの主な特徴は以下の通りです。
- 累計会員数は1,700万人以上
- 累計マッチング成立数は5億組以上(毎月10,000人のカップルが誕生)
- 主なユーザー層は20代(20代の2人に1人が利用経験のある)
- グルメ・映画・スポーツなど共通の趣味からパートナーを探せる
- 安心・安全への対策
- 24時間365日の監視パトロール
- 公的身分証明書による本人確認
- AIを用いた不正利用者の早期検知システム
- 万が一のトラブルに対するLINE電話によるカスタマーサポート
株式会社Omiai(Omiai)
Omiaiを提供する企業です。
元は株式会社ネットマーケティングが運営しておりましたが、株式会社withが広告事業を子会社化したことに伴い、メディア事業であるOmiaiについては分割し、株式会社Omiaiが設立されました。
株式会社Omiaiは、2023年より株式会社エニトグループが運営を行っております。同社は株式会社withの
Omiaiのメディア事業において、2021年度までは堅調に売上を伸ばしてきました。しかし2022年度は、セキュリティ強化や不正会員対策などのサービス改善によるコスト増に加え、会員獲得のためのプロモーション費用の集中投下などにより、大幅な減収減益となっています。
サービス(アプリ)の特徴
Omiaiの特徴は以下の通りです。
- 月の新規会員登録者は約10万人前後
- 有料会員数は2022年度時点で70,482人
- 主なユーザー層は20~30代(20代:51%、30代:37%、40代:12%)
- 結婚を見据えた相手探しを目的とする人が多い(約85%)
- 新規登録者の男女割合は男性44%、女性56%と女性からの支持が多い
MG Japan Services 合同会社(Tinder)
会社の特徴
Tinderを運営するNASDAQ上場のMatch Groupの日本法人(2019年設立)です。
上記の通り、日本ではpairsもMatch Groupの一員で、世界最大規模のマッチングアプリ事業者といえます。
日本法人の決算情報は確認できなかったので、参考にグローバルでの売上を掲載します。Tinderは世界中で利用されており、2022年には1,794百万ドルまでに達しています。
サービス(アプリ)の特徴
Tinderの特徴は以下の通りです。
- 有料会員数は1,090万人(2022年時点)
- 10代後半から20代前半の若年層の利用が多い
- 男性・女性ともに基本機能は無料で利用できる
- 位置情報(GPS)を利用し、近くの相手とマッチングできる
- 恋愛だけでなく、話し相手や趣味友達を探すといった用途での活用ができる
競争要因
それでは最後に、今後マッチングアプリ業界における競争要因を考察したいと思います。
安心・安全の確保
上記の通り、マッチングアプリにおいてはプロフィールの虚偽が行われたり、投資詐欺に利用されたりするリスクが存在します。そのため、安心安全に向けた取り組みがユーザーの新規獲得・利用継続につながります。
例えば、pairsは本人確認において、金融機関でも用いられている高水準のAI画像判定、顔認証の「LIQUID eKYC」を導入しています。従来の公的証明書による判定に比べ、本人の実在性を担保できるため、より安全を確保することができます。
この「LIQUID eKYC」はOmiaiも利用しています。
また、Omiaiでは2021年5月に不正アクセスを受け、転免許証や健康保険証、パスポートなどの画像データ171万1756件が外部に流出しました。Omiaiは上記のインシデントを受け、利用規約を見直し、個人情報の保有期間を短縮。利用者が退会した後は90日で破棄することとしています。
タップルは、機械学習技術を活用した不正検知フィルタを導入しています。機械学習により若年層ユーザーの言葉遣いを考慮した検知を実現し、年齢を偽ってサービスの利用を試みる18歳未満のユーザーをいち早く検出することが可能となります。また、プロフィール画像が掲載基準を満たすか自動で判定します。
テクノロジーを活用した価値創出
次にテクノロジーを活用し、ユーザーに今までにない価値を提供することも競争要因の一つとなります。
多くのマッチングアプリの仕組みはほとんど同じで、コモデティ化している実態があります。そのため、今までにない価値を提供し、ユーザーに魅力を感じてもらうことが重要となります。
タップルでは、2023年4月10日にChatGPTでプロフィール文を添削できる新機能「プロフィールAI添削」の提供を開始しました。会員がプロフィールを作成後、「ChatGPT」が添削し、より良いプロフィール文にするためのアドバイスがもらえる機能です。「タップル」内の調査によると、プロフィール文を書くことでマッチング率が30.5%上がるという結果が出ています。
pairsやwithなどはAIを用いてマッチング精度を向上する取組を行っています。今後は、年齢、居住地、職業という観点だけでなく、性格や価値観が重要視されます。仮にマッチングが実現したとしても性格や価値観が合わなければ、交際や結婚には至りません。なので、いかに性格や価値観の指標を定めるか、また、その性格や価値観をどのように測定するかといった点が今後の検討課題となると考えられます。
他サービス等との連携
他サービス等との連携により、新規ユーザーの獲得、利用継続を実現することも重要となります。
pairsは2023年4月13日より、社員のプライベートの充実を支援する企業や交際・結婚相手を望む社会人をサポートする取り組みとして、業界最大級の福利厚生サービス「ベネフィット・ステーション」にて男性有料会員プランを特別価格でご利用いただける「Pairs for Benefit Station」の提供を開始しました。福利厚生としてより多くのユーザーが利用を開始することが見込めます。
Omiaiは2023年4月5日に、株式会社KADOKAWAが運営する恋活・婚活サポートサービス「NOVIO」と業務連携を開始しました。「会ってから関係が進むのか不安」、「メッセージが続かない」マッチングに関する悩みを解消するため、NOVIAのノウハウを活用した伴走機能を強化します。
その他、アプリ利用者に特典として提携サービスを優先利用できるといった取組を多くの企業が進めています。但し、特典は短期的なユーザー獲得にはつながるものの、長期的なLTV(顧客生涯価値)の向上にはつながりにくいと考えられます。
そのため、ユーザーがどのような悩みを抱えているかを明確にし、その悩みを本質的に解消できるようなサービスとの連携が今後求められると思います。
交際・結婚後のサポート
マッチングアプリでは、交際に至った段階で解約に至ることが多いと思いますが、交際・結婚以降も継続してサポートすることにより、長期的なLTV(顧客生涯価値)の向上を実現できると考えられます。
相手との付き合い方や結婚後の生活など、多くの場面でユーザーの悩みは発生すると考えられます。その際に、マッチングプラットフォームに蓄積されたデータを活用し、適切なアドバイスを提供することで、顧客ロイヤリティを高めることができます。他サービスとの連携によりノウハウを補完するといった手段も考えられます。
交際・結婚をゴールとして捉えるのではなく、長期的な視点でのサービス提供を実現することが今後の競争要因になります。
まとめ
以上、マッチングアプリ業界の市場動向について見てきました。
アプリでの出会いが当たり前となり、今後も利用するユーザーは増加すると思われます。一方で、登録後いかに会員をつなぎ止め、LTV(顧客生涯価値)を向上させるかが今後の鍵となると思われます。
コモデティ化しやすい業界だからこそ、ユーザーに付加価値を与えるための工夫が必要と考えます。
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