近年、企業において生成AIの利活用が進んでいます。社内の事務的な業務だけでなく、広報活動などにも生成AIを活用するケースが増えています。
生成AIは業務の生産性を向上させるメリットがある一方で、使用方法を一歩間違えれば大炎上し、せっかく作った作品の削除、企画の中止に追い込まれるケースもあります。そのため、生成AIの利用にあたってはそのリスクを十分に理解し、注意して使用する必要があります。
本記事では、実際に起きた企業の炎上事例を分析し、リスク回避の教訓を解説していきたいと思います。
「悪意はなかった」が通用しない時代。なぜ、あの企業は炎上したのか?
SNSが普及して十数年が経過しましたが、企業の炎上は一向になくなりません。中小企業から大手企業、公的機関に至るまで、些細な発言や行動が火種となり、瞬時に信頼とブランドを失うリスクが日常となっています。
本書は、この「なくならない企業の炎上」の根本原因を徹底的に分析し、現代企業が生き残るために必須の危機管理戦略をご提供します。
- 炎上の構造と真の原因
- 30の最新事例からの具体的な教訓
- 炎上を防ぎ、沈静化させる組織戦略
生成AIのリスク

まず、生成AIを利用するにあたっては、生成AIが抱えるリスクを理解しておくことが重要です。
誤情報生成(ハルシネーション)のリスク
生成AIは「意味」ではなく「それらしい言葉のつながり」を学習データから予測しているため、事実に基づかない、もっともらしい「嘘」を出力することがあります。これをハルシネーションと呼びます。当然ながら誤った情報に基づく意思決定は、期待する成果が得られないばかりか企業に損害をもたらすリスクがあります。
また、誤情報を顧客に送信したり、そのまま公開したりすると、企業の信頼性が失われるだけでなく、顧客等に損害が出た場合は補償問題にもつながる可能性があります。特に、医療、法律、財務、報道など、情報の正確性が人命や社会的な信用に直結する分野では致命的になる可能性もあります。
また、学習データに存在する偏見や差別的な情報を取り込み、人種や性別に対する差別的な表現や、倫理的に不適切なコンテンツを出力する場合があります。完全に誤情報でなくとも、偏見や差別を助長するような意見・表現は強い批判の対象となります。
著作権侵害のリスク
AIによって生成したコンテンツが他者の権利を侵害する可能性もあります。
日本国内においてはAIによる生成物が著作権侵害を正式に認めた判決は、2025年10月現在で確認されていませんが、海外では著作権侵害を認めた裁判例があります。
本件では、日本の円谷プロダクションが著作権を持つ「ウルトラマン」のキャラクター画像を中国の事業者がAIに学習させ、類似画像を有料で生成・配布していた。裁判所は、AIによる著作物の一部または完全な複製を認定し、AIによる画像生成の停止を命じた。
日本において明確な結論は出ていませんが、AIによって生成したコンテンツが既存の著作物と酷似している場合、著作権者から損害賠償や使用差し止めを求められるリスクがあると認識すべきでしょう。たとえ法的に問題がないとしても、人気クリエイターの作風に類似したイラストを無断でAIに学習させ、生成・利用すると強く批判される場合があります。
AI特有の不自然さ・違和感
AIにより生成されるコンテンツは日々その精度を高めていますが、依然としてAI特有の不自然さや違和感があり、それに嫌悪感を感じる人も多いです。たとえば、AI生成画像には以下のような違和感を感じる場合があります。
- 指の数や形が異常
- 目は笑っているのに口元が笑っていない
- 歯の陰影がなく、1枚の板のように見える
- 毛穴、産毛がなく肌が不自然に滑らか
- ポーズが人間には不可能な形になっている
- 光源が一箇所に定まっておらず、影の方向・位置が不自然
- 背景のぼかしが均一すぎて不自然
- ロゴ・文字が意味のない文字の羅列や読めない文字になっている
たとえば、以下のAIで生成した画像は一見リアルですが、よく見ると不自然な点が多くあります。

不気味の谷
また、AIが生成した人物には「不気味の谷」現象が起きると考えられています。
「不気味の谷」とは、AIが生成した人物が人間に近づくにつれて違和感や嫌悪感を感じるというものです。これは、顔のパーツ、動作、表情など本来の人間が兼ね備えているバランスをAIでは完全に再現できないことに起因します。言葉では説明しづらいですが、人間に限りなく近いからこそ「何か違う」という違和感が強調されます。
このようにAIが生成するコンテンツには不自然さや違和感が残る場合があります。それが、「気持ち悪い」「低クオリティだ」といった批判が寄せられることがあります。
生成AIに関する炎上事例

企業が生成AIを利用することで、多数の批判を集め、謝罪に追い込まれたり、企画が中止になったりするケースがあります。法的な問題というより、感情的・倫理的な理由によって批判を集めて炎上しているケースがほとんどです。
| 日付 | 炎上事例 |
|---|---|
| 2025/05/13 | ブリュッケ、「エッホエッホ」の画像を生成AIで加工した画像を投稿し、物議 |
| 2025/03/22 | 京都・車折神社、AI生成イラストをアイコンに使用し、批判殺到 |
| 2024/11/07 | ファーストイノベーション、「福岡つながり応援」メディアで生成AIによる誤情報掲載 |
| 2024/10/01 | ローソン、生成AIを利用したブロマイドの販売停止 |
| 2024/08/17 | 日本マクドナルド、Web CMにAIアーティストとのコラボ動画を使用し、批判殺到 |
| 2024/07/12 | Filmarks、生成AIを使ったCM動画に批判殺到 |
| 2024/06/19 | 池袋アニメーションフィルハーモニー、チラシにAI生成画像利用で批判 |
| 2024/05/15 | ワコム、生成AIアートコンテストの協賛に手違いで掲載 |
| 2023/11/07 | TBS、生成AIによるフェイク画像に関する誤報 |
| 2023/09/15 | The HEADLINE、生成AIを使って作成した記事を削除 |
| 2023/08/24 | 日本赤十字社、AIにより関東大震災の証言を生成する企画の中止 |
生成AI利用により炎上するパターン

生成AIの利用によって炎上する要因は様々ですが、近年の傾向を踏まえると以下のようなパターンが多いです。
- 企業姿勢の矛盾・ダブルスタンダードに起因する炎上
- AI利用の不開示による炎上
- ハルシネーション(誤情報生成)による炎上
- 著作権侵害による炎上
- 生成AI特有の「気持ち悪さ」で炎上
企業姿勢の矛盾・ダブルスタンダードに起因する炎上
近年の生成AIの利用により、炎上するパターンで特に多いのが、企業姿勢と矛盾するような形で生成AIを利用することです。芸術家やクリエイター向けにサービスを提供する企業・コンテンツを保護するような立場の企業が、安易に生成AIを利用することで批判を集めることがあります。
たとえば、映画レビューサービスのFilmarks運営がSNSで生成AI技術を用いたCM動画を投稿したことで炎上した事例があります。これは、映画製作者や俳優の努力によって成り立つ映画を使ったサービスを展開しているにもかかわらず、生成AIを利用することは映画や俳優に対するリスペクトがないと受け取られたものと考えられます。その当時、ハリウッドでは生成AIの利用を巡り、俳優や脚本家による大規模なストライキやデモが行われており、「AIはクリエイターの仕事を奪う脅威」という認識が業界全体で最も高まっていたこともあり、炎上を拡大させたものと考えられます。
また、直接生成AIを利用しなくても、生成AIの活用を支援するような行動でさえも批判を集める場合があります。
「全国AIアート甲子園@i-SEIHU」の協賛社一覧にイラストレーター向けのペンタブなどを販売するワコムの名前があったことで炎上した事例があります。実際には、ワコムの名前は手違いで掲載されたとのことでしたが、AIのイベントに協賛するという行為だけでも「クリエイターを裏切った」と受け取られるリスクがあるということです。
生成AIを使ってはいけないというルールがあるわけではないのですが、その企業の顧客層・ファン層によっては生成AIの利用に対して強い嫌悪感・拒否感を示されることがあります。上記以外では、ギャラリーの運営、芸能・芸術の神社、アニメーションフィルハーモニーなどで炎上した事例があります。その他、イラストレーターを使ったグッズを販売するような企業でも、安易な生成AIの利用は「クリエイターやイラストレーターに対する裏切りだ」と受け取られる可能性があるでしょう。
AI利用の不開示による炎上
生成AIを利用するにしても、AIを利用していることを明確にしない、または、意図的に隠蔽するような行為も批判の対象となります。
たとえば、ローソンはイラストレーター“おしつじ”のオリジナルブロマイドを販売しましたが、おひつじ氏のイラストには生成AIを使用したものが含まれていたため、多数の批判が寄せられました。「生成AIを利用している」ことを明示しないことだけでなく、「イラストレーター」という呼称を使用したことについても、「生成AIをイラストレーターと表記するのは客をだましている」といった批判がありました。
生成AIユーザーを「イラストレーター」や「絵師」と呼んではいけないというルールはありませんが、多くの伝統的なイラストレーターやクリエイターおよびそのファンは、その呼称に反対する傾向が強いです。「イラストレーター」や「絵師」は、その努力・技術に対する敬意の表明と考え、プロンプトを入力する行為だけでその称号を与えるのは不適切と考えます。どちらが正しいか結論は出ていませんが、誤解を招かないためにも生成AIを利用してイラストなどを作成する人は、「AIアーティスト」などの呼称を使うのが推奨されます。
上記のように製作過程において生成AIを利用していることを明確にしないと、顧客の不信感を生み、信頼性を損なう可能性もあります。生成AIを隠す意図がないにしても、曖昧な表示では「クリエイターへのリスペクトが欠ける」「不誠実だ」といった批判の対象となります。
ハルシネーション(誤情報生成)による炎上
生成AIは完璧なものではなく、時として誤った情報を出力する場合があります。これをハルシネーションと呼びます。AIにより生成された情報は、理路整然とした文章構造や実在しそうな固有名詞を使って誤情報を生成するため、人間の目によるチェックをすり抜けやすいという特徴があります。
地方の魅力を発信する「福岡つながり応援」公式Webメディアにおいて、記事コンテンツに誤った情報が掲載されていると指摘が相次いだ事例があります。問題の記事は、生成AIを活用して作成されており、福岡県に存在しない施設など誤情報が掲載されていました。このような基本的な事実が見過ごされていたことから、記事の作成者はAIが出力する情報はすべて正しいと過信があったと考えられます。
このような誤情報が原因で他者に経済的な損害を与えた場合、損害賠償責任を負う可能性があります。また、景品表示法、薬機法、金融商品取引法など各種法規に抵触し、行政処分を受ける可能性もあります。経済的なダメージを受けるだけでなく、企業にネガティブなイメージを与えることになります。
逆に真実の情報をAIによるフェイク情報であると断じることで炎上するリスクもあります。
TBSは、情報番組「サンデーモーニング」で、生成AIで作られたフェイク画像として紹介したイスラム組織ハマス幹部などの画像について、生成AIを使って作られた画像ではないものと考えられるとして訂正し、謝罪しました。「怪しい画像=生成AIによるフェイク」という先入観があることで、オリジナルの画像と判断してしまったものと考えられます。
たとえば、イラストレーターが自ら作り上げた作品に対して、「このイラストはAIによる盗作だ」と断じると名誉毀損などの罪に問われる可能性もあります。
著作権侵害による炎上
生成AIを利用することで意図せず、著作権を侵害する可能性があります。生成AIは様々なソースから学習し、情報を生成しますが、その情報が既存のコンテンツをそのまま出力(盗用・剽窃)したものである可能性があります。
たとえば、The HEADLINEが公開した記事について「明らかな盗用・剽窃を確認できる箇所がある記事」(25文字以上同一の記述が連続)、「盗用・剽窃の疑わしい箇所がある記事」(15文字以上25文字未満同一の記述が連続)が確認された事例があります。同社が開発していた生成AIシステム(β版)には、他の記事をコピー&ペーストしてしまうという欠陥があり、それを事前に検出できなかったものと考えられます。
利用者が盗用の意図がなくても、結果的に他人の著作物を無断で複製したことになり、著作権侵害の責任を問われる可能性があります。
また、著作権侵害のリスクでも紹介した通り、他者のイラストを学習したAIで生成したイラストが著作権侵害となる場合があります。AIが学習データとして大量の著作物を取り込んでいるため、利用者が元の作品を認識していなくとも、AIが学習していれば法的に依拠関係が推認されるリスクもあります。
生成AI特有の「気持ち悪さ」で炎上
生成AIの利用が法的に問題がないとしても、AI生成物特有の不自然さや違和感によって、炎上するパターンもあります。
たとえば、マクドナルドが公開した生成AIを使ったCM動画に対して「気持ち悪い」「クオリティが低い」といった批判が寄せられた事例があります。クオリティの低さに批判が寄せられることは仕方がないかもしれませんが、AI特有の違和感に対して拒否反応を示される場合もあります。
特に多くの人の目につく広告や信頼性が求められる広報資料に、生成AIによってつくられた不気味な画像やイラストが使われていると、「気持ち悪い」「倫理観がない」といった批判が生じる可能性があります。理屈ではなく感情の問題ですが、このような生成AIに対する嫌悪感から不買運動やボイコットにつながる可能性もあるので、注意が必要です。
生成AI利用による炎上の対策

生成AIの利用による炎上リスクを最小限に抑えるためには、組織内できちんと対策を立てておくことが重要です。以下では、炎上の防止、被害の最小化を実現するための対策を紹介します。
生成AI利用方針の策定
まず、自社で生成AIを利用するか否か、利用する場合はどの範囲で利用するか、利用方針を明確にする必要があります。利用方針を決めるに当たっては、自社の事業方針・サービスなども踏まえて決定します。
たとえば、芸術家・クリエイター向けにサービスを提供しているような企業については、基本的なスタンスとしてはAI生成画像などを使用しない方が良いかもしれません。仮に利用する場合は、メインの広告・プロモーション動画などには使用せず、資料の挿絵など部分的な使用に留めるなど利用範囲を限定することも大切です。
生成AIを一切使用しないとする方針も良いのですが、すべて人間の手で作業するとなると時間もコストもかかってきます。そのため、生成AIを使用するコンテンツの重要度、対象顧客の人数・特徴、使用する場合のリスク、使用しない場合のコストなど複数の要素から利用するか否かを判断することをおすすめします。
ダブルチェック体制の構築
前述の通り、AIが生成したコンテンツについては偽情報が含まれたり、他者の著作権を侵害したりする可能性があります。そのため、出力された情報や画像は必ず複数人でチェックする体制を整備するようにしましょう。
ファクトチェック
AIが生成した文章やデータについては、まず信頼できる一次情報、二次情報を確認してその真偽を確認するプロセスを構築します。また、コンテンツによっては法務部門、広報部門など専門的な知識を持つ第三者と連携し、クロスチェックするプロセスを構築することも有効です。
著作権・権利チェック
AIが生成した文章が盗用・剽窃に該当しないかは、Copyleaks、chiyo-coなど文章の類似性チェックツールの使用が効果的です。これらのツールは、単なる「完全一致」だけでなく、表現や構文が巧妙に改変された類似性の高いコンテンツやAIが生成したテキストを識別する機能を備えています。
AIが生成した画像や動画が著作権侵害のリスクがあるかどうかを識別できるツールは、現在のところ有効なものはないと考えられます。そのため、Google画像検索を使って視覚的に類似性の高い画像をリストアップし、著作権侵害のリスクがないかどうかを判断していくしかありません。
AI使用の明示と合理性の説明
広告、プロモーション、記事などでAIが生成したコンテンツを利用する場合、「AI生成によるものです」「一部AIを利用しています」といった形で、その事実を明確に示すことが大切です。たとえ、そのコンテンツ自体が商品になるものでなくても、きちんとAI利用を示すことで余計な不信感を抱かせることを防ぐことができます。
また、AIを利用する目的が単なるコスト削減や手抜きではないことを説明することも重要です。たとえば以下のようなポジティブな理由を併せて明示することで顧客の納得感を高めることができます。
- 人間では表現しえない斬新なアイデアを得るため
- AIのサポートを得ることで適切な表現を実現するため
- 広告にかかる費用・時間を削減し、メインとなるサービスの品質を向上させるため
大切なことは、AIを利用することが顧客にとってもメリットがあるということを示すことです。AI利用が、最終的なサービス品質の向上・提供価格の低下につながっていることを示すことで、信頼性を高めることにつながります。
まとめ
以上、生成AIのリスク、炎上事例、炎上のパターン、炎上の対策について紹介しました。
生成AIはうまく活用することで、業務の効率化・サービス品質の向上につながります。炎上を過度に恐れ、活用しないというのは非常にもったいないです。生成AI利用による炎上は法的な問題よりも、感情・倫理に起因する場合がほとんどです。そのため、生成AIに関する最新の倫理観を理解した上で、もし生成AIを利用した場合、顧客・ユーザーはどのような反応を示すかを想像することが大切です。
本記事を参考に、炎上を避けつつ有効に生成AIを利用する方法を検討してみてはいかがでしょうか。
「悪意はなかった」が通用しない時代。なぜ、あの企業は炎上したのか?
SNSが普及して十数年が経過しましたが、企業の炎上は一向になくなりません。中小企業から大手企業、公的機関に至るまで、些細な発言や行動が火種となり、瞬時に信頼とブランドを失うリスクが日常となっています。
本書は、この「なくならない企業の炎上」の根本原因を徹底的に分析し、現代企業が生き残るために必須の危機管理戦略をご提供します。
- 炎上の構造と真の原因
- 30の最新事例からの具体的な教訓
- 炎上を防ぎ、沈静化させる組織戦略


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