SNSによる情報発信は、企業のマーケティング・プロモーションにおいて欠かせないものとなっています。上手く活用すれば、新規顧客開拓、顧客ロイヤリティの向上を実現することができます。また、導入・運用コストが低く、取り組みやすいメリットもあります。
その一方で、SNSでの投稿が炎上し、短期的な売上の低下、ブランドイメージの毀損を引き起こすリスクもあります。また、SNSの投稿はスクリーンショットされ、デジタルタトゥーとして残留し、長期的なダメージをもたらす場合もあります。
SNSによるマーケティング、プロモーションが主流になり、かなりの期間が経過していますが、SNS投稿による炎上は絶えません。SNS炎上の原因は、単に「うっかり」「不用意」といった無配慮さから起こるのではなく、企業や発信者が持つ社会的な感度や価値観が、世間や特定のコミュニティの最新の規範・感情とズレていることにあると思われます。炎上を防ぐためには、過去の事例などから学びこのズレを修正していく取組が重要です。
以下では、最新の企業・公的機関などの炎上事例と共に、炎上の原因、注意すべき「地雷投稿」、炎上の対策について解説していきます。
「悪意はなかった」が通用しない時代。なぜ、あの企業は炎上したのか?
SNSが普及して十数年が経過しましたが、企業の炎上は一向になくなりません。中小企業から大手企業、公的機関に至るまで、些細な発言や行動が火種となり、瞬時に信頼とブランドを失うリスクが日常となっています。
本書は、この「なくならない企業の炎上」の根本原因を徹底的に分析し、現代企業が生き残るために必須の危機管理戦略をご提供します。
- 炎上の構造と真の原因
- 30の最新事例からの具体的な教訓
- 炎上を防ぎ、沈静化させる組織戦略
なぜ企業・役所のSNSは炎上するのか

そもそも、なぜ企業・公的機関のSNS投稿が炎上するのかという点についてです。投稿内容自体が問題になるだけでなく、いくつかの要因が組み合わさって、炎上が発生・拡大することになります。特に炎上に関わる要素として以下のものが挙げられます。
- 投稿者の属性:誰が投稿したのか
- 投稿の意図:どのような目的、狙いを持って投稿したのか
- 投稿のタイミング:いつ投稿されたのか
- 投稿の内容:どのような内容だったのか
投稿者の属性
まず、投稿者が誰なのかという観点です。当然ながら匿名の個人アカウントの発信よりも、組織の名を背負った公式アカウントの方が炎上しやすく、影響も大きくなります。特にその組織に期待される役割と投稿内容にギャップが生じることで炎上が発生することがあります。
公的機関のアカウント
公的機関のSNSアカウントは、その性質から市民より厳しい目で評価されるため、民間企業のアカウントよりも炎上しやすく、その影響も大きいと考えられます。
たとえば、省庁、地方自治体、国家機関などの公的機関のアカウントにおいては、正確、中立的、誠実な情報発信が期待されます。税金で運営されているため、正確性、中立性、信頼性に疑義が生じると厳しい批判を浴びせられることになります。また、公的機関のSNSでも親しみやすさを出すためにユーモアのある投稿を行う場合もありますが、行き過ぎると「悪ふざけ」「軽薄」といった印象を与え、炎上するリスクもあります。
民間企業のアカウント
民間企業のSNSアカウントについても社会的な責任があるとみなされるため、公的機関ほどではありませんが、批判の対象となります。
特にその企業が本業としている領域での情報発信については、正確性、信頼性が期待されるため、その内容について厳しく評価されます。たとえば、食品メーカーが食品に関する誤った情報を投稿することは、批判の的になりやすいです。
また、投稿内容にも関連しますが、その企業の方針・ビジネスなどと投稿内容がダブルスタンダードになってしまうことで炎上するリスクもあります。たとえば、画廊を運営する企業がAI生成画像を用いて炎上した事例があります。これは、芸術に関する著作権・倫理性に注意を払うべき画廊の運営者が、権利関係・倫理性の不透明な生成AIを安易に使用したというダブルスタンダードによって炎上したものと考えられます。
企業の名を背負った個人アカウント
最近では、「○○社人事部長××」「○○社マーケティング部××」というように企業の名前をアカウントのプロフィールに付けて情報発信を行うアカウントも多いです。このようなアカウントも企業の公式アカウントほどではないにせよ、批判が集中する可能性があります。
SNSのプロフィールに、「個人的な意見であり、所属組織とは一切関係ありません。」というように所属する企業や組織の公式見解ではないことを明記していたとしても、その企業自体に炎上が及ぶ場合があります。そのようなディスクレイマーがあったとしても、多くの人はそれを無視し、「その人の意見=その組織文化の反映」と無意識に受け取ってしまうのです。
そのため、私的なアカウントであっても企業名・役職名を公開している以上は、所属企業・組織への炎上のリスクがあるということ理解して運用する必要があります。
投稿のタイミング
投稿するタイミングによっても炎上しやすくなる場合があります。
特別な日
災害や重大な事件の発生日など特定の層にとってデリケートな感情や記憶を呼び起こす日は、普通の投稿であっても炎上するリスクがあります。
甚大な被害や多くの犠牲者が出た災害・事件発生日については、意図なく投稿内容がその災害・事件に結び付けられる場合もあります。たとえば、以下のような日については注意が必要となります。
- 大規模な自然災害発生日
- 1月17日:阪神・淡路大震災
- 3月11日:東日本大震災
- 4月14日:熊本地震
- 重大な事件・事故発生日
- 3月20日:地下鉄サリン事件
- 4月25日:JR福知山線脱線事故
- 8月12日:日本航空123便墜落事故
- 9月11日:アメリカ同時多発テロ事件
また、戦争の悲劇を思い起こさせる日についても軽々しい投稿は避けられるべきです。
- 8月6日:広島原爆の日
- 8月9日:長崎原爆の日
- 8月15日:終戦記念日
さらに、一見楽しいイベントであるエイプリルフールでも炎上のリスクを内包しています。たとえば、エイプリルフールに「ライスの販売停止」という投稿で炎上した事例があります。その時の情勢にもよりますが、たとえエイプリルフールだからといってどのような嘘をついてもいいというわけではなく、ネガティブな内容、悪質なジョークは避けるべきでしょう。
投稿の意図
投稿の意図が受け手に正確に伝わらずに炎上するパターンもあります。公式アカウントが良かれと思って投稿したものでも、受け手には全く異なる意味で伝わり、批判される場合もあります。たとえば、ユーモアの演出を意図した場合であっても、人によっては不快感を感じる場合があります(例:すっぴん女性をネタにした炎上事例)。
その他、イベントや流行りのミームへの便乗が透けて見える場合、炎上を狙って注目を集めようとする意図(炎上商法)が見られる場合なども反発を招くことがあります。
理解しておかなければいけないのは、投稿者の意図は受け手に対して完璧には伝わらないということです。SNSの投稿は短文や画像が主体で、背景にある意図や経緯、声のトーンといった文脈情報が抜け落ちやすいです。また、投稿はリツイートやシェアで切り取られ、本来の文脈から離れた場所で拡散されることになります。結果的に誤った意図で情報が伝わり、炎上を引き起こすことになります。
投稿の内容
投稿の内容は、炎上の最も直接的な原因であり、様々なパターンで炎上する可能性があります。たとえば、以下のような投稿は特に炎上しやすいです。
- 差別・偏見・ルッキズムの助長:特定の属性に対する配慮や理解が欠けている投稿
- 法令・コンプライアンス違反:企業・公的機関としての社会的責任や倫理観を問われる投稿
- 社会的センシティブテーマ:意見が割れやすく、感情的になりやすいテーマに関する投稿
- 内部情報の取り扱いミス:組織内の情報管理体制の甘さが露呈する投稿
- 炎上後の不適切な対応:炎上そのものよりも、その後の対応で火に油を注ぐ場合
難しいのは、近年の社会環境・人々の価値観の変化により何が炎上の火種になるか分からないということです。明らかなミスや不適切な内容であれば、事前に検知し、対応することが可能ですが、受け手の解釈の違い・誤解・憶測などによる炎上は予防が難しいです。投稿者が「面白い」「刺さりそう」と思って投稿したものでも、好意的に受け取らない人が多いと炎上を招く場合があります。
かといって炎上を過度に懸念すると、投稿内容が無難になりすぎてしまい、ユーザーにとっては魅力に欠ける投稿になってしまいます。そのため、「地雷投稿」を理解した上で、個性やユーモアを磨いていく姿勢が大切になってきます。
注意すべき「地雷投稿」については後段で解説します。
2025年の企業・公的機関のSNS炎上事例

2025年も企業や公的機関のSNS投稿によって炎上が多く発生しています。その背景には、社会のジェンダーや多様性への意識の高まり、AIなどの新技術への懸念、政治的な中立性への要求があります。
以下では、SNS投稿に関して謝罪が行われたものを炎上事例として整理しています。各事例の詳細はリンク先をご覧ください。
| 日付 | 炎上事例 |
|---|---|
| 2025/03/05 | 日本郵政、すっぴん女性をネタにしたことで批判殺到 |
| 2025/03/22 | 南港ストリートピアノ、利用者に向けた注意喚起に批判殺到 |
| 2025/04/01 | ほっかほっか亭、エイプリルフール投稿「ライスの販売停止」で批判殺到 |
| 2025/04/14 | ナウル共和国政府観光局、映画のネタバレ投稿を謝罪 |
| 2025/05/04 | フジテレビ、サザエさん告知投稿について誤解を招く表現で謝罪 |
| 2025/05/13 | ブリュッケ、「エッホエッホ」の画像を生成AIで加工した画像を投稿し、物議 |
| 2025/05/20 | ギャガ、デミ・ムーア主演映画の日本公式Xが投稿したイラストに批判殺到 |
| 2025/07/11 | セブン&アイHD、ユニフォーム紹介画像で「中国(台湾)」と表記し、批判殺到 |
| 2025/07/13 | ぐんまちゃん公式情報、「この県(くに)を愛して何が悪い!!」投稿炎上 |
| 2025/08/11 | 福岡市長、市民の河川氾濫投稿を「虚偽情報」と指摘し、後に事実と判明し謝罪 |
| 2025/08/13 | ミツカン、「そうめんづくりが重労働か」の議論に一石を投じるも批判殺到 |
| 2025/09/10 | Jリーグ、ACLプロモ動画で「もう2番目は要らない」という表現に批判 |
| 2025/09/19 | バンビシャス奈良、マスコットキャラが投げられる動画を投稿し、批判殺到 |
| 2025/10/03 | NHK、ミャクミャクに関するクイズで配慮に欠ける表現があったと謝罪 |
注意すべき地雷投稿

企業・公的機関のSNS投稿が炎上する要因は様々ですが、近年の傾向を踏まえると以下の投稿については特に炎上しやすく注意が必要です。
- ジェンダー問題に関わる投稿
- ユーモアを履き違えた投稿
- 政治的意図が透けて見える投稿
- 行き過ぎた表現・断定を含む投稿
- 生成AIを利用した投稿
ジェンダー問題に関わる投稿
男性・女性といった性別への偏見を助長するような投稿は避けるべきです。
たとえば、日本郵政はすっぴん女性をネタにした動画を投稿し、炎上しました。問題となった動画は、女性がすっぴんを見られたくない一心で、ドアの隙間やロボットアームなどを駆使して顔を見せないようにする様子がコミカルに描かれたものでした。「すっぴんを見せたくない」という女性の外見に関する不安やコンプレックスを過剰に強調し、笑いのネタにしていると解釈されたと考えられます。
また、性別による役割を軽視するような投稿にも注意が必要です。「女性は家庭、男性は仕事」という価値観は依然として残っており、特に女性の役割を軽視するような投稿は、その意図がなくとも炎上するリスクが高いです。
たとえば、ミツカンは、「冷やし中華なんてこれだけでも十分美味しいです」と、茹でた中華麺に同社のつゆをかけたシンプルな冷やし中華の写真を投稿したことで、批判を受けました。その当時、SNS上では「そうめんづくりが重労働か」という議論が行われており、その議論に一石を投じる形でされた投稿でした。「これだけでも十分」という表現が、「手間をかける必要はない」、ひいては「主婦が手間をかけているのは無駄だ」というメッセージとして受け取られ、「家事を軽視している」「女性蔑視」という批判につながったと考えられます。
そのため、性別に関する偏見・古い価値観を助長するような投稿は避けられるべきですし、その性別が担っている役割を過度に軽視する投稿についても注意が必要です。
ユーモアを履き違えた投稿
SNSを使ったプロモーションでは、ユーザーに魅力や親近感を感じてもらうためにユーモアのある投稿を行うことも大切です。一方で、そのユーモアが行き過ぎると「不謹慎」「悪ふざけ」「失礼」といった印象を与える可能性があります。
たとえば、ほっかほっか亭はエイプリルフール企画として、「本日より全国のほっかほっか亭 全店舗にてライスの販売を停止します。」という投稿を行い、批判が殺到しました。当時、「米の価格高騰」は多くの消費者や企業にとって深刻な経済問題として認識されており、そのような状況で投稿され、「笑えない」「不謹慎だ」と受け取られました。たとえエイプリルフールであってもネガティブな情勢を利用した内容は、ユーモアとして受け取られないということです。
また、ユーモアと考えたものが差別的表現と捉えられる場合もあります。
NHKはSNSで、大阪・関西万博の公式キャラクター「ミャクミャク」の特技に関するクイズを出題し、クイズの選択肢として「道ばたでお金を拾う」「お好み焼きの大食い」などを挙げました。これが、「大阪を馬鹿にしている」「地域差別・レッテル貼り」といった批判的な意見を集めました。また、NHKという公的な組織が偏見を助長するような投稿をしたことも炎上を拡大させた一因と考えられます。
人によって価値観は異なるため、「面白い」と感じるツボは人それぞれで、笑いの裏に「差別」「不謹慎」「無配慮」といったネガティブな要素を感じる人も必ずいます。ただ、一切のユーモアを捨てると、無難で生真面目なだけの投稿となり、ユーザーにとって魅力的に映らないでしょう。そのため、多様な視点で「誰が、どう感じるか」をシミュレーションし、ユーモアの境界線を見極めることが重要となります。
政治的意図が透けて見える投稿
特定の政党を支持したり、特定の思想を強調したりするような投稿は、企業や公的機関の中立性・公平性が損なわれ、炎上する可能性があります。仮にそのような政治的な意図がなかったとしても、言葉の表現、写真、使用している色などからも政治的な意図が邪推される可能性があります。
たとえば、群馬県が運営するぐんまちゃんの公式アカウントから「この県(くに)を愛して何が悪い!!」というコメントとともに、オレンジ色のパーカーを着たスタッフと一緒に片手をあげている写真が投稿され、炎上した例があります。選挙期間中(参議院選挙)という政治的に敏感な時期であったため、使われている「色」や「フレーズ」が特定の政党に結びつけられたと言えます。前述の通り、投稿のタイミングによっては政治的な意図があると判断されるリスクがあるため、投稿内容には一層の注意が必要となります。
また、セブン&アイHDが投稿した「世界のセブン-イレブンのユニフォーム」を紹介する画像で、台湾のユニフォームに付けられた表記が「中国(台湾)」となっていたことで、炎上した例もあります。この表記は、中国の主張に迎合し、台湾を国として扱っていないと受け取られました。そのような意図があったかどうかはわかりませんが、国際政治上、極めてデリケートなテーマについては意見が割れやすく、強い批判の対象となり得ます。世界規模で炎上してしまうと、不買運動などにつながり、売上等に大きな影響を与える可能性もあります。
企業・公的機関としては、政治的な意図を投稿に含めないというだけでなく、そのような疑義を生じさせないよう表現には一層の注意が必要です。そのため、担当者自身が政治的・文化的な知見を身につける、投稿前に専門的な知識を持つ部門でチェックをするなどといった取組が重要になります。
行き過ぎた表現・断定を含む投稿
プロモーションにおいて、尖った表現というのは人々を魅了する場合もありますが、それが行き過ぎると逆に不快感を与える場合があります。
たとえばJリーグは、動画で「もう2番目は要らない」というフレーズが含まれたプロモーション動画を投稿し、「準優勝に対してリスペクトがない」「サポーター心理の解像度が低い」といった批判が相次ぎました。優勝を目指すということを強調したいという意図でこのような表現を使ったのだと思いますが、逆に極端な勝利至上主義的な思想とみなされ、準優勝チームなど全てのチームの努力と功績に対する敬意が欠けていると受け止められました。このような強い表現は、注目度やエンゲージメントを高める上で効果的である一方で、極端な二極化・議論を否定する断定表現は反感を買いやすくなります。
また、断定的な表現については攻撃的と受け取られ、その反動でより強い批判を受ける場合があります。
たとえば、福岡市の高島市長が市民の投稿した情報を偽情報と断定し、炎上した事例があります。この事例では、市民が投稿した大雨による川の氾濫の動画に対して、市長は自身のSNSで「大変迷惑な事案」「SNSの偽情報動画です。虚偽情報はやめてください」と投稿し、市民の投稿を偽情報として注意喚起しました。しかし、市長が「虚偽情報」だと断定した投稿が、その後の再調査で実際に川から水があふれた事象を撮影したものであり、事実だったことが判明しました。「偽情報動画です。虚偽情報はやめてください」という極めて強い断定的な表現で批判したことが、単なる誤報の指摘ではなく、市民への攻撃と受け取られ、強い反発を招いたと考えられます。
メッセージを強調するためにはインパクトのある表現を使うことも重要ですが、それが極端な主張、正しさの押し付けと受け取れらないように注意が必要です。たとえば、以下のような表現についてはインパクトがある一方で、反感も買いやすいので、使用する際は注意が必要です。
- 絶対に
- 唯一の正解
- これ以外は認めない、要らない
- センスがない
- 常識がない
- 完全に間違っている
- 男性(女性)は全員…
生成AIを利用した投稿
生成AIの利用が広がる中で、SNS投稿にAI生成画像を利用する企業も増えてきました。一方で、安易な生成AIの活用により、倫理的な問題や品質の低さが批判されるケースもあります。
ギャラリー「翠波画廊」を運営するブリュッケは、ネットミームの「エッホエッホ」フクロウの写真をChatGPTの画像生成機能で“ゴッホ風”に加工したものを、「ゴッホゴッホ」のメッセージとともに投稿しました。これに対して「画廊がAI画像を使うのか」「許諾もなく著作権侵害ではないのか」といった批判が寄せられました。この事例は、芸術に関する著作権・倫理性に注意を払うべき画廊の運営者が、権利関係・倫理性の不透明な生成AIを安易に使用したというダブルスタンダードによって炎上したものと考えられます。
法的な問題がないとしてもAI生成画像に嫌悪感を感じる人も多いです。そのため、企業の立場・役割を踏まえ、AI生成画像を利用することが自己否定につながらないか、メイン顧客の反感を買わないかといった点をきちんと考慮する必要があります。
炎上の対策

炎上リスクを最小限に抑えるためには、組織内できちんと対策を立てておくことが重要です。以下では、炎上の防止、被害の最小化を実現するための対策を紹介します。
多角的なチェック体制の整備
多くの企業のSNS運用は、いわゆる“中の人”と呼ばれる担当者が一人で行っている場合が多いです。「企画を考える」「文章・画像を用意する」「炎上リスクを判断する」といった作業をすべて一人で行っています。SNS運用を一人の担当者に一任することで、“中の人”らしさが生み出され、親しみやすさを与えるというメリットがあります。その一方で、少しの判断ミスが炎上の火種となります。
少なくとも投稿前には、別の人の視点でチェックを行い、問題がないかを確認する必要があります。センシティブなテーマを取り扱う場合には、法務部門などの専門部署のチェックを入れ、コンプライアンス上問題がないか、モラルに反していないかを確認することも重要です。
また、投稿にユーモアやジョークを取り入れる場合も老若男女様々な視点で確認することをおすすめします。その担当者が「面白い」と思って考えた企画・内容でも、別の人が見れば、不快感、嫌悪感、差別的と感じる場合もあります。多様な意見を取り入れ、投稿内容を評価することで担当者本人では気づけなかった火種を検知することができます。
また、投稿する際も即時に投稿するのではなく、予約投稿を活用し、時間的余裕を持たせることも大切です。落ち着いて投稿を見直すことで、不適切な表現や配慮に欠ける部分を検知できることがあります。
NGテーマの明確化と共有
事前に炎上するリスクがあるテーマを明確にし、それをSNS運用担当者に共有することも効果的です。たとえば、政治、人格/プライバシー、宗教、性/ジェンダーに関わるテーマなどは一般的に避けられるべきです。
また、自社の方針・事業内容・文化などによってもNGテーマを設定しておくことも大切です。自社の事業の否定やダブルスタンダードによる炎上を避けるためです。たとえば、食品を扱う企業が商品の大量廃棄を匂わせる投稿や、フードロス問題に対する軽率なコメントは避けられるべきです。
また、地雷投稿でも紹介しましたが、コンテンツ・クリエイターを活用・保護するような立場にある企業については、AI生成画像の使用には注意が必要です。クリエイターの権利や努力を軽視しているとみなされるリスクがあるからです。
さらに、その企業の文化からあまりに逸脱しないようにすることも重要です。たとえば、国家機関や地方自治体が過度にネタに走る、ネットミームへの便乗する、内輪ノリを押し付けるといった投稿を行うと、その信頼性や品格を失うことになります。バズ狙いで安易に他の企業の真似をしてしまうと、長期的なブランド価値を失墜させるリスクもあります。
上記のような点を踏まえて、事前にNGテーマを設定しておくことで炎上投稿を防ぐことができます。
ネットリテラシー教育の徹底
SNS運用担当者だけでなく、全従業員を対象にリスク意識を高める教育を行うことも重要です。近年、企業の名を背負った個人アカウントを運用する人も多くなっています。そのような個人アカウントの炎上が企業に影響を及ぼす場合もあります。
そのため、全従業員に対して以下のような指導・教育を行い、リテラシーを高めることが効果的です。
- 最新の炎上事例の共有:他社や他業界で発生した最新の炎上事例を定期的に共有し、「何が、なぜ問題となったのか」を分析・議論させる。
- プライベートアカウントの運用指導:企業名や所属を明かしている従業員に対し、プライベートアカウントであっても企業の信用を損なう発言をしないよう指導する。
- AI利用ルールの教育:生成AIを利用する場合、機密情報の入力禁止、著作権侵害リスク、生成物のハルシネーション(誤情報)のチェックを必須とする教育を行う。
炎上時の対応ルール・フローの策定
万が一炎上が発生した際の初動対応を明確にすることで、被害の拡大を防ぐことができます。安易に投稿を削除し、謝罪を行うと、その行為が炎上を拡大させる可能性もあります。正確な事実関係の把握と早期の対応が重要になります。
たとえば以下のような対応ルール・フローを定めておくことで、被害を最小限に抑えることができます。謝罪文や説明文などはあらかじめいくつかテンプレートを用意しておくことでより迅速な対応が可能となります。
SNSでの異常を検知(ネガティブ言及が急増、トレンド入りなど)し、直ちに上長や広報チームに報告する。
本当に炎上しているか(規模・勢い・内容の深刻度)を冷静に判断する。単なる苦情や議論と切り分ける。
問題の投稿、批判コメント、拡散状況をスクリーンショットなどで記録する。
炎上がデマや誤解によるものか、投稿内容に客観的な非があるのかを判断する。また、投稿内容に法令違反、倫理違反があるかを確認する。
投稿を即時削除/非公開にするか、削除せず説明を行うか決定する。また、「謝罪と原因究明を行う」のか、「誤解を解く説明とデマの否定を行う」のか、対応の基本方針を決定する。
決定した方針に基づき、具体的な原因、謝罪/説明、再発防止策を盛り込んだ文書を作成する。
謝罪文/説明文を、公式SNSアカウント、ウェブサイト、必要であればプレスリリースで同時公開する。
炎上が発生したからといって慌てて投稿を削除し、とりあえず謝罪するのではなく、事実関係・原因を正確に把握し、誠実に対応することが大切です。炎上後の対応次第で、「この企業は困難な状況でも誠実に対応できる」という良い印象を与えることもできます。
まとめ
以上、SNS炎上の要因、2025年の炎上事例、注意すべき「地雷投稿」、炎上の対策について紹介しました。
SNSはうまく活用することで、プロモーションや顧客エンゲージメントの強化につながります。炎上を過度に恐れ、活用しない、無難な投稿に終始するのは非常にもったいないです。「地雷」を回避しつつ「個性」を出していく姿勢が重要になると考えられます。
本記事を参考に、炎上を避けつつ魅力的な情報発信を行うSNS運用を検討してみてはいかがでしょうか。
「悪意はなかった」が通用しない時代。なぜ、あの企業は炎上したのか?
SNSが普及して十数年が経過しましたが、企業の炎上は一向になくなりません。中小企業から大手企業、公的機関に至るまで、些細な発言や行動が火種となり、瞬時に信頼とブランドを失うリスクが日常となっています。
本書は、この「なくならない企業の炎上」の根本原因を徹底的に分析し、現代企業が生き残るために必須の危機管理戦略をご提供します。
- 炎上の構造と真の原因
- 30の最新事例からの具体的な教訓
- 炎上を防ぎ、沈静化させる組織戦略


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